横須賀市の終活支援の陣頭指揮を執ってきた、同市地域福祉課終活支援センターの特別福祉専門官・北見万幸さん

葬儀を執り行う人がいない

 身元がわかっていても、親族に引き取りを拒まれるなどして、引き取り手が見つからない遺骨が増えている。

「身元不明で葬祭を執り行う人がいない場合は、行旅(こうりょ)死亡人として、死亡した地の市区町村が埋葬や火葬を行います。身元がわかっていても葬祭を執行する人がいない場合、法的には親族には遺体を引き取る義務はないとされているので、墓地埋葬法が適用され、市区町村長が行うことになっています。費用は亡くなった人の遺留金で充当しますが、できない分は自治体が負担します」

 そう解説するのは、引き取り手のない遺骨問題に詳しい長野大学の鈴木忠義教授(社会福祉学)だ。

 総務省の調査によると、身元が判明していても自治体が葬儀を行った人の件数は、2018年4月から21年10月までで1万154件に上った。

引き取り手がいない背景は

 遺骨の引き取り手がいない背景には、単身高齢者が増えたことに加え、冒頭のように、子どもがいない夫婦のどちらかが先に亡くなって「おひとりさま」になったケースも多い。未婚の人が増加していることも挙げられる。

「現在の高齢者は比較的、兄弟姉妹は多いけれども、大学進学や就職を機に都心部に移り住むケースも増えた世代です。高齢になって親たちが亡くなると、親戚の付き合いは希薄になるのは仕方のないこと。付き合いがないところにある日突然、『叔母さんが亡くなったので遺体を引き取ってください』と言われても、甥や姪は仕事を休まなければならなくなるうえ、金銭面を含めて大きな負担が伴う。断るのも仕方がないと思います」

 と、鈴木教授は親族側の状況に一定の理解を示す。

自治体の負担が増加

 だが、地方自治体にかかる負担は課題だ。故人の戸籍謄本から親族を捜し、連絡を取るといった事務作業がある。

 親族が見つかったとしても、個人情報の壁がある。住所から番号案内サービスで電話番号を調べても、固定電話の契約を解除していれば文書で亡くなったことを伝えるしかない。全員から返事が来るとは限らず、引き取り手にたどり着くまでに相当な時間がかかる。

 故人の遺品や持ち家などの財産は市区町村が保管することになっているが、自治体は相続人を捜して意思確認を行う必要がある。引き取り手のない遺骨の数が増えるほど、自治体側に煩雑な作業やコストがかかる

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