「古典的なビタミンB1欠乏症としての脚気はまれです。しかし、それよりも軽度の不足症状の、いわゆる『隠れビタミンB1欠乏症』を患っている人はずっと多いと思われます」

 それでは、「隠れビタミンB1欠乏症」になると、どんな症状が見られるのか。「そこがとても難しいポイント」と田中部長は話す。

 ビタミンB1欠乏に伴う症状は多い。循環器系・呼吸器系では足のむくみや肺高血圧症、右心不全、頻脈、頻呼吸など。運動器系では筋萎縮、末梢神経障害、筋力低下。神経系では運動失調、脳の炎症、認知機能低下、眼振、眼球運動障害などがある。

「例えば、消化器系の症状は、食欲不振、便秘、下痢、嘔吐。そんなのは何の病気でも起こるので、この症状でビタミンB1欠乏症を疑うなんて普通はしません。ですから、症状で診断する病気ではなく、血液検査で診断する、臨床検査の病気という医師もいます。ただ、現実的に医師が検査をするかというと、なかなか難しい」

 さらにビタミンB1の不足は心不全のリスクを増大させ、生死にかかわりかねない。しかし、田中部長は、

「ただ残念ながら、ビタミン欠乏や不足による病気は、もう『過去のもの』と見られることが多い」

 と嘆く。

「ビタミンの状態を改善すると、さまざまな症状がよくなります。本当は大切なことなんですが、体内のビタミンを測定して研究をする人はとても少ないのが現状です」

特定の食品に偏らず

 さまざまな不調、そして生死にもかかわるため、ビタミンB1が不足していないか気にしておく必要がある。ビタミンB1は豚肉、ゴマ、大豆、落花生などで摂取することができるが、そればかりに注目するのは問題だという。

「マスコミが『○○予防にはビタミン◯◯を多く含む、この食材がいい』と取り上げると、消費者が飛びつく。でも、ビタミンだけでも13種類あるわけです。毎日、特定のビタミンのことを考えて暮らしていけるわけがない。それに、たんぱく質が全然足りない人がビタミンだけ補充してもしょうがない。ですから、私のおすすめは、特定の食品に飛びつかずに、可能な範囲で毎日いろいろなものを食べましょう、ということです」

 ただ、バランスのよい食事をしたくても、どの食材も値上がりしている昨今だ。

「一番安くビタミンを充足させる方法は、総合ビタミン剤を飲むことですが、バランスの悪い食事をして、ビタミン剤を飲むことはおすすめできません。できれば、食生活を改善していただきたい。ただ、ビタミンの欠乏しやすい高齢者が総合ビタミン剤を飲むことは悪くないと思っています」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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