安倍、菅義偉両政権が「強権批判」を浴びていたのに対して、岸田首相の「聞く力」や「リベラル」「ハト派」の姿勢には、自民党支持者だけでなく無党派層からも期待があった。だが安倍氏の国葬を独断で決めたことに始まり、旧統一教会問題には明確な対応を打ち出せず、防衛費の増額も十分な説明なしに突っ走った。期待は失望に変わっている。岸田政権への不満が募り、道府県議選で自民党が議席を減らすようだと、党内では「岸田首相で次の衆院選が戦えるのか」という疑念が一気に高まるだろう。
第3のハードルが経済だ。米国はインフレ抑制が最優先で高金利が維持される。中国は新型コロナウイルスの感染拡大で景気回復は望めない。日本も2022年12月の日銀による「事実上の利上げ」で、長く続いてきた金融緩和が修正されていくだろう。防衛費増額の財源に法人税引き上げが想定されている中で、大企業は大幅な賃上げには慎重になる。そうした情勢で景気回復は見込めない。物価高の中で実質賃金が下がり、人々の暮らしが厳しくなるようだと、政権批判が強まるのは避けられない。岸田首相は21年秋の政権発足直後には、富裕層増税を掲げていたが、株価下落を見てそうした格差是正策は先送りされた。23年も格差是正に手をつける様子は見られない。「経済無策」が政権にとって致命傷になる可能性がある。
岸田首相は1月の欧米各国訪問をはじめ「外交での得点」を狙う。5月に広島で開くG7サミット(主要7カ国首脳会議)に向けて、参加各国首脳との連携をめざす。サミットでは、議長としてウクライナ支援を確認するほか、台頭する中国への共通認識を取りまとめたい考え。だが、外交は一時的に注目されるとしても、政権の浮揚力にはなりにくい。景気低迷で暮らし向きが苦しくなる国民にとっての関心は、外交よりも経済や社会保障の具体策だろう。
防衛費増額で増税を打ち出した際、岸田首相は「決定プロセスに問題ない」という考えを強調したが、世論の反応は違った。ロシア・ウクライナ戦争や中国の軍事的台頭の中で防衛費増額とある程度の増税はやむを得ないという反応がある半面、政府・与党内の決定が唐突で説明不足という意見が多数を占めている。岸田首相が「防衛政策の大転換」と言うならば、国民への説明も従来のやり方を超えた「大転換」が求められるはずだ。