富野由悠季監督(撮影/河嶌太郎)

人類が宇宙で暮らすことはあり得ない

――「逆襲のシャア」をはじめ、ガンダムシリーズは富野監督の60年のキャリアにおいてどんな影響があったのでしょうか。

「機動戦士ガンダム」から「逆襲のシャア」までの約10年間、作品を作り続けてわかったことがあります。人類が宇宙に出て生活したらどうなるのだろうというシミュレーションをしていたことに僕は気がつきました。そこから得られた僕の結論は、人類が地球を出て宇宙で暮らすことは絶対にあり得ないということですね。ただ、それを否定してしまっては「宇宙戦記モノ」が作れなくなってしまいますから、その後も「ガンダム」シリーズを作り続けました。

 そのおかげで、僕は人類の宇宙生活に肯定的な考えがあると思っている人もいるようなのですが、全く逆です。人類はこの地球に住み続けなければなりませんし、だからこそ地球環境を大事にしなければなりません。人類の脱出口は宇宙にはないわけです。僕は2014年以降、「Gのレコンギスタ」というシリーズを作っていますが、近年の作品では僕の本音とも言える側面をより前面に打ち出しています。

「21世紀の資本主義」に取りつかれている

――近年では、イーロン・マスクのスペースXをはじめ、民間の宇宙開発も進展しています。

 民間の宇宙開発が世界的に始まり、中にはイーロン・マスクのように宇宙移民を提唱している人もいます。ただ、どこまで本気で言っているのかという点について僕は懐疑的です。恐らく本当は無理だということはわかっていても、宇宙開発をビジネスにしていく上でのお題目を唱えているだけなのではないかとも思います。宇宙移民はなくても、人工衛星をもっと打ち上げたり、宇宙から資源を調達したりといった部分での宇宙ビジネスは今後も進むでしょう。宇宙開発が実際に盛り上がりを見せている点では、人類は「21世紀の資本主義」に取りつかれていると言えるのかもしれません。

 ただ、繰り返しになりますが、僕は人類の脱出口は宇宙にないと思っています。どうすれば人類は地球に永遠に住み続けられるのかを考えなければなりません。そして宇宙に脱出口を見出そうとする「21世紀の資本主義」にどう立ち向かっていくか、その理論闘争が200年ぐらい続くのではないかと考えています。

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