「このチャンスを逃すと、勉強しようという気にはおそらくならなかったと思います。体力的にも無理がきくぎりぎりの時期だろうなと考えました」

 経営学の基礎から応用まで体系的に学べる経営管理研究科で、平日夜と土曜日に開講する「夜間主総合」プログラムに在籍した。社会人の学びの特徴は「本気度」の強さだと感じるという。自分でお金を出して働きながら学ぶのだから、何一つ無駄にはできない。いかに効率よく勉強や情報収集できるかに注力したという。

「そのあたりは学部生の時とは時間の流れ方が全く違います」

 大学院の平日の授業が終わるのは午後10時。それから帰宅後、授業によってはオンラインでのグループワークなどが午前0時前後に始まることもあった。終わるのは午前1~2時。八木さんは当時、BSテレ東の朝の生番組に出演するため月~金曜日は午前4時に出社しなければならなかった。さらに、ラジオNIKKEIの生放送のレギャラ―番組を週3本。ほかにもイベントや番組終了後の延長配信、証券会社の動画にも出演し、フリーアナウンサーとしてフル稼働していた。昼間に30分でも隙があれば寝ていたという。そんな中、どうやって学びの時間を確保したのか。

「とにかくスキマ時間をフルに活用し、移動中もパワーポイントを作ったり、自宅のキッチンにパソコンをおいて作業したりしていました。座ると寝てしまうので立ったままやっていました」

 履修単位を落とせなかったため、出産1週間後には自宅からオンラインで授業に出席していたという。こうした苦労の末に得られた成果は何だったのか。八木さんは経済キャスターの仕事に生かせるスキルにとどまらず、次のキャリアに向けたヒントを得ることもできたと明かす。

「将来、今とは別の道に進もうと思った時、ビジネスの上で自分が興味のある分野は何なのか、ある程度、範囲を絞り込むことができました。企業の人材育成の手法として注目されるコーチングなどの勉強は今後も続けていきたいと考えています」

 親しく交流したゼミのメンバーとは今も定期的に集まり、互いの近況報告をしているという。「同志」との絆もほかでは得がたい財産だ。(編集部・渡辺豪)

AERA 2024年7月8日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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