ここにおいてチーズは、「私たちが人生で求めているもの」の象徴であり、生きていくための糧です。それを一度は発見したものの、そのままではただ減っていくだけだと理解したとき、ある人は「まだいいだろう」と現状維持を優先し、変化を嫌うのに対して、別の人は「このままではまずい」と考え、現状を放棄して新しい道を探しに出ていくわけです。

 AI時代の到来と社会の大変化を前にした私たちも、まさにこの状況に置かれているのではないか……というのが、AIを研究してきた私のシンプルな感覚です。
 

チーズは会社そのもの

 新聞では毎日、他国の企業がAIを使って何かを開発したり、日本の企業がAIを導入して事業を効率化したりする話が報じられています。もしかすると、あなたの勤めている会社でも、すでにAI導入の動きや検討が始まっているかもしれません。

 『チーズはどこへ消えた』に置き換えると、いま働いている人たちが「ネズミ」や「小人」なのだとしたら、「チーズ」は所属している企業や組織、そこでのキャリアやポジション、あるいは毎月支給される給料に当たるでしょう。

 おおよその会社員は、それなりに苦労して入社した企業に毎日通い、指示された業務を実直、誠実に処理し、毎月決まった日に予定された給料が振り込まれることを「当たり前」だと考えているかもしれません。あるいは、最初こそ違和感を持っていたものの、いつの間にかその環境に慣れてしまった人もいるでしょう。

 しかし、その「チーズ」を目当てにしているのは決して自分だけではありません。

 「チーズ」はだんだんとすり減っていきます。なかには新しい世界を目指して、その場を離脱する人も現れ始めました。そうした状況を知っていても、新しい場所に出るのは恐ろしいものです。結局、残っていればどうにかなるだろうという考えの人が、「チーズ」がなくなっていく瞬間を、不幸にも目撃することになります。

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