本書は、スタジオジブリで27年間アニメーターとして働いた著者による回顧エッセイ集だ。自身がジブリに入社して「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」など代表的な作品の動画チェックを担当するようになるまでと、制作現場での「闘い」の風景が描かれる。
 読み所の一つは、身近な立場から見た宮崎駿監督の素顔だ。時に「瞬間湯沸かし器」のように怒ってもその後本人のところに行って必ずフォローを入れる、毎朝散歩して道路のゴミ拾いを欠かさないなど、宮崎監督の人間的な魅力が愛を込めて語られる。同時に、著者が監督らと一人の人間同士としてぶつかり合う様にも大いに惹きつけられる。「ハウルの動く城」制作時、当時部下だった演出助手を交代させると突然告げられプロデューサーの鈴木敏夫氏に直訴しに行くエピソードからは、著者の仕事に対する熱意や矜持が伝わってくる。ジブリの貴重な内部風景録であると同時に、一人のアニメーターを通じ、楽しさや苦しさも含めた「仕事」の価値を再確認できる一冊だ。

週刊朝日 2016年1月22日号

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