つらいときや苦しいとき、「誰もわたしをわかってくれない」「誰も助けてくれない」と感じたことはありませんか? 頑張っているのになぜかうまくいかず、誰にも認めてもらえず、落ち込んだりイライラしたり、なにかしら不満を抱えている人は多いはず。こんなとき、どうすればこの問題を解決できるのでしょうか。
「じつは、あなたが抱えている問題、悩みは『あなたを守るために』存在しています。
早く解決して消去してしまいたい問題や悩みの裏側には、あなたを守るという役目があるのです。
それが、『問題の本当の姿』。
あなたを守ろうとしてあなたの心が生み出した、もうひとりのあなたです。
あなたの心の防衛の役目を担っています」
上記は書籍『わたしが「わたし」を助けに行こう ―自分を救う心理学―』に書かれた言葉です。同書では、「なぜかうまくいかない」に焦点を当てて、心理学の観点からわたしたちの抱える問題を探っていきます。著者は心理療法・栄養療法・音楽療法の3つの柱を通して活動する公認心理師の橋本翔太さんです。
そもそも「なぜかうまくいかない」は多くの人の悩みのタネと言えます。「部屋が片付けられない」「忙しくて時間がない」「相手に思ったことが言えない」「お金が貯まらない」「がんばっているのに成果がでない」など、改善しようとしているのになぜか繰り返してしまう......。心当たりがある人は多いのではないでしょうか。
同書によると、それには心理的に大きな「意味」と「目的」があり、「なぜかうまくいかない」の原因は、自分を守った結果なのだそうです。こうした心の防衛反応を、同書では親しみを込めて「ナイト(騎士)くん」と呼んでいます。
例えば部屋が片付けられない人のナイトくんは、どんなふうにわたしたちを守ってくれているのでしょうか。
「片付けて部屋がスッキリすると、頭の中もスッキリしますよね。
(中略)ところがこれによって、普段抑え込んでいた不安や焦燥感などが湧いてきてしまう人は少なくありません。
(中略)つまり、部屋が片付いていないことで思考も気持ちもモヤモヤしている。
『このモヤモヤのおかげで、不安や焦燥を感じなくてすんだ』
という、メリットがあったのです」(同書より)
逆に部屋が散らかることが許せない人は、「散らかった部屋の中、つらい親子関係の中で育ったあのときの悲しみや怒りにつながっている」可能性があると指摘します。どちらにしてもナイトくんは、片づけない/片づけるほうがメリットがあると判断して、その方向へ導いてくれているということです。
「そんなことせず両方上手に解決してよ!」と思ってしまいますが、これにも理由がありました。
「ナイトくんの誕生のきっかけになる出来事は、『幼いながらも、自分でなんとかするしかなかった』経験をしたときです」(同書より)
ナイトくんは、幼いころの自分が自分を救うために生み出した存在です。生み出された理由は、親子関係の問題や学校での人間関係などさまざまですが、幼い自分が生み出したため「不器用・極端・心配性」という3つの特徴を持っているそうです。本当は片付けをできない自分も、不安や焦燥感を抱える自分も両方解決したいけれど、幼い自分(ナイトくん)はすべてを解決する方法がわからないのです。
そう考えると、ナイトくんの健気な頑張りにハッとさせられます。誰からも認めてもらえない中で頑張っていたナイトくんを、せめてわたしは認めてあげたいという気持ちになってきませんか。
そうして少しずつわたしたちの中のナイトくんを知り、わたしたちがもう大人になって自分で問題に向き合える力がついてきたことをナイトくんに伝えることで、「なぜかうまくいかない」が少しずつ解決していくでしょう。同書では、ナイトくんの詳細や、どのようにナイトくんと対話をしていくのか、著者の橋本さんが実際にクライエントさんとおこなっている「ナイトくんワーク」の実例を交えながら丁寧に解説しています。
「なぜかうまくいかない」という状況に自己嫌悪したり周囲を責めたりせず、優しい気持ちで自分と向き合うことができるようになる同書は、苦しい思いをしている人の手助けになるはず。特に感情のコントロールが苦手な人や幼いころに大変な思いをした人には、ぜひ読んでみてほしい一冊です。
[文・春夏冬つかさ]