成原慧さん(なりはら・さとし)/東京大学大学院情報学環助教などを経て、2018年から九州大学法学研究院・法学部准教授。専門は情報法
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 米国のアップルは6月10日、生成AIをiPhoneなどの幅広い製品に組み込む方針を打ち出した。より私たちの生活に身近なものになる生成AIだが、どう付き合えばいいのか。九州大学の成原慧准教授に聞いた。AERA 2024年6月24日号より。

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 メディアへの生成AI導入で「AIを使った調査報道」が進んでいるのは良い変化だと感じています。今年のピュリツァー賞でAIを使った記事が受賞したのも、「AIを使ってどうデータを分析したか」という「人間の手腕」が評価されたのだと思います。

 一方で記者が現場を取材することなく量産される「コタツ記事」は懸念しています。残念ながら生成AIはそういった「もっともらしい記事」を書きやすくしています。AIの回答に対する最終的な人間のチェックはもちろん、「どういう方針で記事を書くか」「どこにニュースバリューがあると判断するか」など、ジャーナリストの役割がさらに問われてくると思います。

 6月10日にアップルがiPhoneへの生成AI機能搭載を発表しました。これまで私たちはスマホで検索エンジンなどを通じてニュースにアクセスしていました。今後は生成AIで何でも調べられると、その情報で満足してしまい、ニュースサイトを見てくれないかもしれない。読者にとってニュースサイトが「意識の外」になる可能性さえある。そこをメディアがどう考えるかも課題です。

 情報の質よりも関心を集めることで経済的利益を求める「アテンション・エコノミー」が言われる中、生成AIを使ってより人の目を引きやすい「あたかもニュースのような」情報が出てきやすくなるでしょう。読者はそれに脊髄反射的に反応するのではなく、ファクトチェックを調べてみたり、周りに拡散する前に発信元を確認してみたり、冷静な受け止め方が大事になってくると思います。

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年6月24日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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