北国に雪が積もり、今年も除雪が始まりました。この時期になると北海道のニュースで話題になるのが、「ササラ電車」の出動です。「ササラ電車」とは、路面電車の軌道を除雪する車両のこと。北海道の初冬の風物詩、「ササラ電車」。今年も札幌で11月24日から出動しています。
この記事の写真をすべて見るササラ電車は札幌と函館だけ。ササラ部分を取りつけるのもまた、初冬の風物詩。
日本で路面電車が走っている都市はいくつもありますが、今、ササラ電車が現役で走っているのは、札幌と函館の2市だけです。
札幌では毎年10月の中ごろになると、ササラ電車にササラ(ブラシの部分)を取りつける作業が行われます。札幌市の交通局で行われるこの作業は報道公開されていて、市民はこのニュースを見ると、「そろそろ冬か…」と思うのです。
函館では毎年11月の中旬あたりから、ササラ電車の試運転を報道公開します。今年は11月26日に試運転が行われ、本格的な雪のシーズンに備えました。普段は雪のない軌道を走っての試運転ですが、公開当日に雪が積もることもあり、試運転がそのまま本番に…ということもあるそうです。
鍋を洗う竹の 「ササラ」 にヒントを得た。1両に800束、年間で8000束のササラを使用。
ササラ電車の歴史は古く、実用化されたのは1925年(大正14年)です。当時、欧米ではすでに、ブラシを回転させて除雪する電車が走っていました。一方、札幌ではその頃はまだ、雪が降ると人手による除雪だったので、大雪が降ると追いつかず、市電が運休することもありました。そこで、札幌電気軌道(今の札幌市電)の技術者が、外国の文献を参考に試行錯誤を繰り返し、ブラシで除雪する電車を開発しました。しかも、ブラシの部分に竹を利用するという、日本独自の方法を考案したのです。
ブラシのヒントになったのは、「ササラ」と呼ばれる、中華鍋などを洗う竹のブラシです。
ササラ電車のササラに使われる竹は、主に東北地方の真竹です。長さ28.5cm、直径3.5cmの円筒形。竹の先はそれぞれ2mmの太さに統一されていて、約200本に分かれています。竹の根元は太さ1.2mmの針金で四重に巻かれ、3カ所で固定されています。
サイズや作り方がきっちりと統一されたササラは、1本の木台に50束ずつ打ちつけられます。ブラシはこの木台8本を一組として、回転軸を中心に放射線状に並べられ、車両の前後に一組ずつ、取りつけられます。つまり、ササラ電車1両に、なんと800束のササラが使われています。
札幌のササラ電車は、4両で年間約7,000kmを走ります。ササラはだいたい700km走ると交換するので、ザッと計算すると、一冬でおよそ8000束のササラが使わることになります。ササラを木台や電車に取りつけるのは札幌市の職員が手作業で行いますが、その際、先代からのコツも脈々と伝承されているそうです。
車も人も通る市電の軌道。除雪するのも運転するのも難しいササラ電車。
鉄道の場合はラッセル車やロータリー車で、一気に力強く雪をかき分けて除雪しますが、路面電車の場合は、ただ除雪するだけでなく、レールの溝から雪を書き出す作業が必要になります。
路面電車の軌道を見たことがある人はおわかりだと思いますが、軌道は車も人も通る道路上にあるので、溝が浅めです。この溝の中の雪を積もったままにしておくと、圧雪となってしまいます。北国の場合は気温が低いので、圧雪からさらに氷の塊になってしまうこともあります。このような“目詰まり”は、脱線の原因となってしまいます。
つまり、路面電車の除雪は雪が降り始めた“新雪”のうちに、ブラシ状のもので掃き飛ばさなければなりません。ブラシの回転数は毎分255回転。札幌では冬の間は毎朝4時にササラ電車が出動し、軌道の雪や氷をブラシで掃き飛ばしています。