ポプラ社の『おちゃめなふたご』(右2冊)と『十五少年漂流記』(左2冊)の新旧表紙。同一作品とは思えないほど趣が異なる(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 児童文庫の歴史は戦後間もなく50年代に始まる。『名探偵ホームズ』や『江戸川乱歩』などをはじめ“名作”を中心にした岩波少年文庫が刊行された。70年代に入ると偕成社文庫、ポプラ文庫など新レーベルも次々と参入し、児童文庫が盛り上がっていったという。

「講談社青い鳥文庫の『黒魔女さんが通る!!』(石崎洋司)や『若おかみは小学生!』(令丈ヒロ子)などがアニメ風のイラストを起用して大人気になり、この頃から人気イラストレーターや漫画家による装画が増えました。2000年ごろからは、角川つばさ文庫や、集英社みらい文庫など、コミックやライトノベルに強い出版社が児童文庫に参入。タイトルロゴやカバーデザインも洗練され、一気に“今風”の美男美女が表紙を飾るようになりました」と門田氏。

 時期を同じくして、『坊っちゃん』や『十五少年漂流記』『小公女セーラ』等、懐かしの名作を出す出版社も表紙イメージを一新する。ブルーの枠に青い鳥が飛び、牧歌的な絵が特徴的だった講談社青い鳥文庫の表紙もまた、よりポップな絵柄に変わっていった。しかし、「長年親しまれてきた文庫の絵柄を大きく変えることについては、社内でもさまざまな意見があったと聞いています」と、青い鳥文庫現編集長の白土知之氏は言う。

「数多くの名作を収録してきた児童文庫ですから、できるだけ作品の世界観を壊したくないという声は編集部内にあったそうです。当時は『漫画的すぎるタッチの絵を表紙に使うのはどうか』と批判もあったようです」

 だが、時代の変化に寄り添って良い物語を届けたいと読者の声に応えた。

 講談社ではこの頃、表紙の変化だけでなく新作児童書にファンが増え、売り上げを伸ばした。今年刊行の『JC紫式部』(石崎洋司)は人気漫画家・阿倍野ちゃこの表紙と冒頭の描き下ろし漫画が大好評だ。(ライター・玉居子泰子)

AERA 2024年4月8日号より抜粋