にぎやかな店内は、雑然としながらも落ち着いて飲める雰囲気が魅力。ドラマに登場した小泉今日子のシングルも見える

 中に入ると、U字型のカウンターを囲む壁一面には、アイドルのシングル盤が整然と並ぶ。「目線のいきそうな高さには、有名どころが並んでいますが、基本的にはランダムです」と富永さん。この情景は圧巻である。しかもジャケットだけでなく盤自体も入っているというところに、経営者の本気度がうかがえる。

 店の電話番号の下4ケタが「6700」というのもニクい。読み方は「シックス・セブン・オー・オー」。「ハロー、ダーリン」という妙子の声から始まる、あの「フィンガー5」の名曲「恋のダイヤル6700」をさりげなく忍び込ませてあるのだ。カウンターの一番奥と途中の角に設置された2台のテレビからは、「8時だョ!全員集合」「鉄腕アトム」「ど根性ガエル」など、昭和を代表する映像が次々に流れる。それらを肴に一杯飲やるのも悪くない。

 カウンターには、昭和ならではのグッズも飾られている。実際に使っていた世代なら、そこから会話も弾むだろう。南沙織のシングルレコードがつるされているが、彼女は沖縄女性の美しさを全国に知らしめた最初の歌手だった。かの吉田拓郎もファンで、あだ名だった「シンシア」というタイトルで曲を書いた。ピンク・レディーの写真も、当時の歌謡界の盛り上がりを、改めて思い起こさせてくれる。

 さらに、小学生の遠足の定番だったタータンチェックの丸い水筒。毎日の給食も楽しみだったが、芝生の上に座って食べた弁当のおいしさは格別だった。どこの家庭にもあった花柄のキッチン用品も遠い記憶の中に残っている。鍋は、母親が作ってくれた煮物の味の懐かしさを思い出させるし、魔法瓶の柄も同じような花で飾られていた。「あの魔法瓶は、祖父の家にありました。私にとっても懐かしい感じです」。1990(平成)年生まれの富永さんが、笑顔を見せた。「店内は最初、もっとシンプルでしたが、だんだんモノが増えていき、途中からはあえて雑然とした感じを出すようになりました」(富永さん)。

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