19世紀後半。若きデンマーク人牧師ルーカス(エリオット・クロセット・ホーヴ)が布教のためアイスランドの浜辺に到着する。馬と徒歩で赴任先の村を目指すルーカスだが、増水した川や広大な氷河湖など道のりは厳しい。言葉も文化も違う異国の地で、次第にルーカスの心身は疲弊してゆく──。「ゴッドランド/GODLAND」のフリーヌル・パルマソン監督に本作の見どころを聞いた。
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私はアイスランドに生まれ、デンマークの大学に留学のような感覚で行き、またアイスランドに戻ってきました。文字通りここは故郷です。アイスランドは1944年までデンマークの統治下にありましたが、デンマーク人はアイスランドについてあまり知りません。両方を知る私ならこの物語が作れると思ったのです。映画の冒頭に出てくる「デンマーク人牧師が撮った7枚の写真からインスパイアされた」という設定はフィクションです。2013年に脚本を書き始めてずっとうまくいかなかったのですが、牧師がカメラを持って人々を記録しているアイデアが生まれてすべてがうまくいきました。
アイスランドでは人間も動物も天候に大きく左右されて生きています。人と自然の距離が非常に近く、人々の気質にもそれが影響していると思います。当時の手紙などを調べるといかにデンマーク人がアイスランド人を嫌っていたかがわかります。船長の手紙に「アイスランド人は醜くて臭くて、非常に残虐である」などと書いてあるのです。本作では無理やりドラマを作ることはしませんでした。対立した二つの文化があるだけで、自然とドラマが生まれるからです。
物理的に大変な撮影ではありました。でも天気が悪いほどいい画が撮れるので、「もっと悪くならないかな」と願ってもいました(笑)。火山の噴火がタイミングよく起きてマグマが流れ出すシーンを撮ることができるなど運に恵まれました。ただ近年、この地の自然環境は大きく変化しています。降雪がとても少なくなり、なにより家の近くにあるヨーロッパ最大の氷河が溶けてきているのです。牧師の旅を通してみなさんにも精神的、身体的な体験をしていただき、さまざまなものを感じ、受け取ってもらえればと願っています。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2024年3月25日号