監督「……(どうすりゃいーんだよ)」

助監督「……あのー、紙幣って破れたりしても、3分の2くらい残っていれば銀行で換金してくれるみたいですよ」

監督「え? そーなの!?……どうでしょう、火をつけて、全てが燃え切らないうちにセリフを言ってもらってですね、すぐに火を消して銀行に持っていけばお金は無駄にならないかと……」

俳優「そんなことは……」

監督「とりあえずテストだけしてみませんか? 新聞紙のフェイクに火をつけて、セリフだけでも言って頂いてチェックしましょう! OKなら本物でやってみましょう! 時間もないんで! ハイ! テストの準備ーーっ!」

監督「ヨーイっ! スタートっ!」

女「暗くてお靴が分からないわ」

監督「火をつけて! ハイ! セリフ!」

俳優「……よくごらんよ。ないはずはないんだから。暗いといっても、目を凝らせば見えるはずだ。灯台下暗しと言ってね……何事もまず手まわりの様子を見て、注意深く行動しなければならないよ。人生というものもそれと同じでだね。私がここまで来たのも、若い頃から他人と同じことをやっていてはダメだという……………熱っ!!!」

監督「カットーーっ!」

俳優「ダメだな、火の回りが早い」

監督「なんで台本にないセリフ言ってんですかっ!」

俳優「この成金はね、ここまで成功するのにそれなりの苦労があったはずなんだよ! ただ安易に火をつけるなんてあり得ない! 私はその行為に彼なりの人生訓をこめて……」

監督「いや! 人生訓なんていらないんですよ! なに軽く説教垂れてるんですか!?  『どうだ 明るくなったろう』だけ言ってくださいよ! 人生訓とか、能書きはその行間にこめてください!! じゃないと、燃え切っちゃいますよっ!……ったく。じゃテストツー! ヨーイっ! スタートっ!」

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「……行間に想いをこめてたら火傷したよ」