著作権上の理由も
家電クラシックで言うと、作曲家で多いのが、モーツァルトだ。例えば日立の洗濯機が仕事を終えると奏でる「ピアノソナタ第11番イ長調 K.331第1楽章」。元は春のそよ風を思わせるような優雅なメロディーだが、電子音が高速で演奏し、「早く干さないとシワになるわよ」と、はっぱをかけるような音楽に仕上げている。
ほかに石油残量が少なくなったとき、ベートーヴェンの「エリーゼのために」が切なく流れるコロナの石油ファンヒーターなどもあるが、家電クラシック界の一番の有名曲は、やはりノーリツの給湯器。「♪タララ、ラララ~……お風呂が沸きました」っていう、あれだ。
「お風呂が沸いた曲」か何かと思い込んでいる人もいそうだが、実はこちらドイツのセオドア・オースティン作曲の「人形の夢と目覚め」なるクラシックの一部。そしてこの音楽、ただの電子音ではないらしい。
電子音は楽譜通りに演奏はするものの、その美しさで人間が演奏するゆらぎのある音楽にはかなわないとされる。
「お話を聞いたところノーリツの技術者の方もそれに気がついて、当初はPCに楽譜を読み込ませて作っていたメロディーを、人の演奏を元に作り変えたそう。お風呂のリラックスタイムを演出する給湯器の音楽に、人間による人間のための心遣いが詰まっていた。音楽に関わっていてよかったと思うほど、感激しました」(渋谷さん)
そもそも家電のメロディーにクラシックが多く使われる理由のひとつは、著作権が切れているため、楽曲自体の使用料がかからないからと言われる。
「もうひとつは、今残っているクラシック曲の持つ力です。何といっても400年経っても世界中で演奏される音楽って、ほかにはないですから」
家電マニアの自分も、家中の家電クラシックを棚卸し。これからは、心して傾聴します。(ライター・福光恵)
※AERA 2024年3月18日号