家電が奏でるクラシックにはモーツァルトやベートーヴェンも(写真:iStock / Getty Images Plus)

 クラシック音楽は、実は日常生活にあふれている。毎日耳にしているあのメロディーが実は名曲だったこと、ご存じでしたか? AERA 2024年3月18日号より。

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 クラシック音楽? ぜんぜん知りません───いえいえご謙遜を。たいてい誰もが毎日聴いている。例えば……。

 朝、象印の炊飯器のスイッチを入れると演奏が始まるのは「きらきら星」。フランスの流行歌を、モーツァルトがピアノ変奏曲に仕上げた。続いて通勤途中の駅では、駅メロディーが聞こえてくる。池袋駅(東武東上線)はモーツァルト、初台駅ではヴェルディ作曲のクラシック音楽が流れる。

ほぼ日本だけの現象

 昨晩の宴会で飲み過ぎたせいか胃が重いので、今日は定時で帰宅。電車のなかでショパンのプレリュード第7番を思い出して、ドラッグストアで「いい薬です」の太田胃散を購入。帰宅後、ノーリツのガス給湯器が奏でるメロディーからの「お風呂が沸きました」のシメのセリフを聞くが早いか、湯船にドボン。

 極楽極楽とつぶやきながら、JR東海のCMに使われている帝政ロシアの作曲家ボロディンの「ダッタン人の踊り」を口ずさみ、そうだ、奈良行こう!って、行き先が違うってば……などなど。知らないうちにどんだけクラシック音楽を聴いているんだか。

「生活の中でこれだけ音楽が溢れているのは、世界でもほぼ日本だけなんですね。調べてみると、例えば家電メーカーだけでも、多くの製品にクラシック音楽が使われていることがわかった。これは『家電クラシック』というジャンルを確立できるかもと、本格的に調べ始めたのが、本を作るきっかけでした」

 そう話すのは『生活はクラシック音楽でできている』(笠間書院)の著者で、音楽プロデューサーなどで活躍する渋谷ゆう子さんだ。家電のクラシックのほか、電話の待ち受け音楽やCM、ドラマの音楽から運動会まで、クラシック音楽が流れるさまざまなシーンを、使われている曲の豆知識などとともに紹介している。

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