批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
* * *
前回の本欄で、政治家や建築家には大阪・関西万博の理念を語ってほしいと記した。
その後作家で参議院議員の猪瀬直樹氏と対談する機会があり、疑問をぶつけてみた(2月28日)。猪瀬氏は大阪府市の元特別顧問であり日本維新の会に所属している。万博と関わりが深いだけでなく、常々作家的想像力を政治に活かすことの重要性を説いている方でもある。理念が聞けるかと期待したが、全く噛み合わなかった。
対談動画はネットで一部公開されている。興味ある方はご覧になってほしいが、猪瀬氏は徹頭徹尾「経済効果」しか語らなかった。なぜ万博なのか、なぜこのテーマでこの展示なのかという問いに対しては、そんな話は無意味だの一辺倒。
筆者はけっして万博反対派ではない。誘致した以上成功させるべきだとも考えている。けれどもいま問題は多くの国民が万博の開催自体に疑念を抱き始めていることだ。だとすれば政治に求められるのは、疑問に丁寧に答え、合意を広げていく姿勢のはずだ。
現在は昭和の戦後復興期ではない。官僚と財界の命令で国民が動く時代ではない。日本に元気を与えたいという猪瀬氏の願いはわかる。そのために国家的祝祭が必要だという議論もわかる。しかし人々に祝祭に参加してもらうためには、いまは昭和期よりはるかに繊細な説得が必要な時代なのだ。「説明を求める奴は面倒だ、とにかくついてこい」と言わんばかりの態度は、万博の成功を遠ざけるものでしかない。