林:ええ、ええ。
生瀬:あるとき、大竹しのぶさんの長いシーンがあって、その稽古をやったんです。それがものすごくよかったんですよ。演出助手が「えーと、次はどこのシーンをやりますか?」と言ったら、「おまえ、こんないい芝居を見せられて、なんでまだ稽古するんだよ。はい終わり」って、その日の稽古、終わっちゃったんです。
林:へぇ~、カッコいい。
生瀬:というか、僕は作戦だと思うんですよ。たぶんそのあと用事が入ってたんだと思う(笑)。でも、それをやることによって稽古場を掌握しちゃうわけじゃないですか。
林:なるほどねえ。
生瀬:舞台初日にみんなを集めて、「今日、舞台が終わったら、評論家とかいろんな人が楽屋に来て、おまえの演技はどうのこうのとか、いろんなことを言うだろう。気にしなくていい。すべて俺の責任だから」って言うんですよ。そしたらみんな「よし、ついていこう!」ってなるじゃないですか。あの人のすごさはそういうところもありました。
林:演出家ってそういう人心掌握ができなきゃダメなんですね。
生瀬:そう。一人スケープゴートをつくって、その厳しい指導を稽古場全体に見せたり。寺島しのぶさんは「私、ほんとに生贄になった」と言ってましたよ。
林:寺島さんにここに出ていただいたら、「おまえの母親は美人だけど、お前は顔が悪いんだから」とか、メチャクチャ言われたとおっしゃってました。
生瀬:寺島さんに反射させてみんなに何かを言いたい、というやり方なんでしょうね。僕はまねっこですから、そうやっていろんな現場でいろんな演出家を見てきて、その中のいいところだけを取るんです。
林:今回のお芝居のキャスティングは、生瀬さんがなさったんですか。
生瀬:だいぶかかわりました。
林:(チラシを見て)藤木直人さんとか、元宝塚の真飛聖さんとか、声優の……。
生瀬:朴ろ美(ぱくろみ、ろ=王に路)さん。僕も今回初めてなんですけど、演劇集団「円」でずっとやられてた人で、いろんな方の推薦で出ていただいてます。
林:初顔の方が多いんですか。
生瀬:多いですね。ソニンも初めてですし。