テックビルケア社長 茶橋昭夫(ちゃばし・あきお)/1981年、大阪府吹田市生まれ。関西大学工学部を卒業後、ソフトウェア会社などを経て、2007年、父の経営する近畿クリーナ( 現・テックビルケア)に入社。メイン事業を清掃業から、防災インフラ検査業に事業転換。19年から現職

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年2月26日号にはテックビルケア 社長 茶橋昭夫さんが登場した。

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 天井にある火災報知機に、カップ付きの長い棒をあてがい、作動するかを確認する。消防法で義務付けられている消防設備の定期点検だ。

「結構、作業自体はアナログですよね」

 定期点検できる資格を持つ「消防設備士」だ。建物の管理者の依頼を受けて、消火器などの設備をチェックする。マンションやオフィスのほか劇場、ごみ焼却施設のピットに出向いたこともある。

 点検業界に入ったころ、2010年の全国の点検の報告率は40%だった。「火の気がないから大丈夫」と点検を依頼しない人もいるし、依頼したい人も、どこに頼めばいいかわからなかった。ネットでPRする業者はほぼなかったからだ。

「この業界は、もともと大手ディベロッパーや管理会社の下請けとして点検をする、多重下請け構造でした」

 下請け仕事だけで手がいっぱいだから、わざわざ営業していなかった。

 そこに目を付けた。自社ホームページを充実させて、ネット広告を打つべきだと提案。 父の経営する会社に入る前、ITエンジニアだったことが役立った。

「もっと効率的な方法があるはずなんですけど、誰も疑わなかったんです」

 ネット展開を始めると、全国の法人や建物オーナーから依頼が舞い込むようになった。

「他社の5歩くらい先に行けたのはラッキーでした」

 下請けを脱却すると、自分たち「らしさ」が出るようになった。顧客に好感を持ってもらうために礼儀をただすなど、スタッフが変わっていった。中間マージンをカットした適正価格に設定できた。「入社して約10年で、利益は10倍にまで成長しました」

 全国の点検の報告率はやや上がり、23年時点で55%になった。また一歩、デジタル化が進みつつある。

「最新の火災報知機は機器が自動点検するんです。現状の点検の仕事はやがてシステムが行うようになり、そのシステムを扱うIT人材が必要になってくると思います」

 ただ、消防設備だけでは火災を消すことはできない。

「自分が普段利用する建物の消火器の位置をすぐに言えますか? 万が一のときに逃げられるか、ソフト面のフォローもしていきます」。まだまだ、人の手でできることは多くある。

AERA 2024年2月26日号