エド・シーランが、4年9か月ぶりとなる来日公演【ザ・マスマティクス・ツアー 2024】を2024年1月27日、28日京セラドーム大阪、1月31日東京ドームにて開催。本稿では、ONE OK ROCKのボーカル・Takaのサプライズ出演もあり爆発的な盛り上がりとなった東京公演の模様をお届けする。
今回の来日公演はセンターステージで行われる。アリーナ中央に巨大な円形ステージと、頭上に筒状のLEDビジョン、そのまわりの四方には長方形のビジョンが設置され、大きなピックがデザインされたコラージュが映し出されていた。17時30分になるとオープニング・アクトのカラム・スコットがステージに登場。ピアノの旋律に乗せた「ライトハウス」で伸びやかな歌声を響かせて、あっという間に観客に受け入れられた。軽快なリフも印象的な「ホイッスル」、美しいファルセットを聴かせた「ビブリカル」等を歌い上げると、「ダンシング・オン・マイ・オウン」で驚異的なロングブレスを聴かせて、拍手喝采の中で再会を誓いながらステージを降りた。
スクリーンに映し出されたカウントダウンに大観衆が声を合わせると、いよいよエド・シーランがステージに登場。力強くアコースティックギターをかき鳴らしながら、「東京ー!調子はどう?」と呼び掛けて「タイズ」でライブがスタートした。衣装はフロントとバックに「TOKYO」と描かれたシンプルな黒Tシャツだ。すぐさまエレキギターに持ち替えて、ブルーノ・マーズ&クリス・ステイプルトンとのコラボ曲「ブロウ」が始まると、ステージからは炎が上がり、エドは舞台上を駆け回る。ステージ周りに配したバンドのサウンドに乗せて迫力の歌声を聴かせた。アコギに持ち替えて歌った「アイム・ア・メス」ではステージ外周が回り出し、ビジョンにはサイケデリックな映像の演出も。後半にはエドの真骨頂、ループステーション(以下ルーパー)による多重コーラスが東京ドームに広がった。続く「シバーズ」では、足元の機材がビジョンに映りルーパーを使った演奏について触れながら、ギター弦をスラップ、単音リフ、鍵盤のリフ、と重ねて行きサウンドを構築していく実演を披露。何をどうやってパフォーマンスを展開しているのかをしっかりと見せてくれた。
「東京に来ることがずっと夢だった。2012年にフジロック・フェスティバルに出演したときは、僕の頭の中では一過性のもので東京に行けるのは1回だけなんじゃないかと思ってた。でも今もこうしてコンサートをすることができてうれしい」と観客に感謝を伝えると、デビューシングル「ザ・A・チーム」を弾き語り。「一緒に歌って!」と求めると、スマホのライトがドーム一面に広がる中、大合唱となった。「キャッスル・オン・ザ・ヒル」で激しくギターをかき鳴らし、ボディを叩いてリアルタイム・サンプリングすると「ジャンプ!」と煽り、「ドント」では軽快にリフをつま弾きながら音を重ねると、ハンドマイクを握りステージを回りながらコール&レスポンス。アグレッシブなステージングを見せた後は、「突然亡くなった友人と、もう会えないと悟ったときに書いた曲」として、「アイズ・クローズド」へ。淡々としたリズムパターンに乗せて歌い上げ、「ギブ・ミー・ラブ」へと続く。終盤になるとコーラスを求めて大合唱となった。
イギリスのコンサート文化と比較して、「日本では誰もが静かに熱心に音楽を聴いてくれる」との言葉から、アルバム『―(サブトラクト)』のオープニングを務める「ボート」を歌い出す。静まり返った場内の空気を震わせる切実な歌声をジッと聴いていたオーディエンスから大きな拍手が送られた。その歌唱力、表現力があってこそのルーパーを使った独特なステージングであることが、こうした楽曲を聴くことで改めてわかる。バンド演奏が加わったメドレーコーナーでは、エミネムとコラボした「リバー」、ファイヤーボーイDMLとの「ペルー」、カリードとの「ビューティフル・ピープル」、カミラ・カベロ&カーディBとの「サウス・オブ・ザ・ボーダー」、ジャスティン・ビーバーとの「アイ・ドント・ケア」までコラボチューンを披露。ステージ上を縦横無尽に行き交いながら、個性の異なる5曲を滑らかに歌い繋いでいった。
Nintendo Switch「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」の挿入歌として書き下ろされた「セレスチアル」を歌うとビジョンにはポケモンたちとコラボしたMVが流れ、「ゴールウェイ・ガール」では、曲の始まりで呼び込んだバイオリニストのアリシア・エンストロームが円形ステージをスキップするように演奏して盛り上げる。ストラトキャスターを弾きながらの「シンキング・アウト・ラウド」は、ソウルフルな熱唱に合わせて会場中から合唱が起こり、コーラスとハンドクラップで一体に。ビジョンに映し出された光に包まれた男女のダンスシーンも相まって、うっとりするような1曲となった。「1、2、3、スクリーム!」と煽ると「ウォ~!」とラウドな歓声がステージのエドに向けられた。歌い出しでドッと沸き上がったジャスティン・ビーバーのカバー「ラヴ・ユアセルフ」、情熱的なメロディにオーディエンスがコーラスで応えた「シング」、そして続けて歌われた「ワン」、「フォトグラフ」の2曲は、独白するような素朴な歌いまわしが胸を打った。さらに、ルーパーを駆使したコーラスワークがゆらめく「テネリフェ・シー」へと、繊細でロマンティックな歌の世界へと誘われる。
「地震のニュースを聞いてとても悲しく思っています」と、能登半島地震の被災者を思いやるMCから、ゆっくりとアルペジオを弾き出すエド。すると、聴こえてきたのは別の歌声。ONE OK ROCKのボーカル・Takaがステージに登場してワンオクの「ホエアエバー・ユー・アー」を歌い出した。思わぬサプライズに場内が騒然となる中、2番はエドが歌い、両手を広げて向き合うTaka。サビメロでハーモニーを聴かせると、歌い終わりでガッチリとハグして固い友情を示した。
炎を吹きあがる中で目を瞑りながら歌い、両手でギターのボディと弦を叩きながらどんどん昇り詰めていく「ブラッドストリーム」の激しさから一転、物静かで呟くような「アフターグロウ」でいったんステージを降りると、すぐさま戻りアンコールへ。東京ドームにちなんで、ジャイアンツのユニフォーム姿(背番号は無し)で登場して喝采を集めた。「ユー・ニード・ミー,アイ・ニード・ユー」で激しいギターストロークとコーラスを重ねると、ギターを置きハンドマイクを握るとラップを開始。ステージを回りながら畳みかける圧巻のパフォーマンスに、思わず場内から驚嘆の声が上がった。イントロで大歓声が起きた代表曲「シェイプ・オブ・ユー」で合唱した後は、「もう1曲やろうか!?」と、「バッド・ハビッツ」へ。ビジョンにピースフルなバルーンが上がっていく映像、炎とレーザーの演出でカオスとなる中、「ジャンプ!」と煽るエドに合わせて飛び跳ねながら、会場が一体となってエンディングを迎えた。最後にエドは、「ありがとうございます、東京!」と日本語で感謝。サービス精神たっぷりに2時間以上、誰にも真似できないパフォーマンスで、時代をリードする世界のポップスターとして、唯一無二の存在感を示したライブだった。
Text:岡本貴之
Photo:Mark Surridge
◎公演情報
【ザ・マスマティクス・ツアー 2024】
2024年 1月31日(水)東京ドーム
◎セットリスト
1.タイズ
2.ブロウ
3.アイム・ア・メス
4.シバーズ
5.ザ・A・チーム
6.キャッスル・オン・ザ・ヒル
7.ドント
8.アイズ・クローズド
9.ギブ・ミー・ラブ
10.ボート
11.パンチライン
12.メドレー(リバー/ペルー/ビューティフル・ピープル/サウス・オブ・ザ・ボーダー/アイ・ドント・ケア)
13.オーバーパス・グラフィティ
14.セレスチアル
15.ゴールウェイ・ガール
16.シンキング・アウト・ラウド
17.ラヴ・ユアセルフ(ジャスティン・ビーバー Cover)
18.シング
19.ワン
20.フォトグラフ
21.テネリフェ・シー
22.Wherever you are(ONE OK ROCK) with Taka
23.パーフェクト
24.ブラッドストリーム
25.アフターグロウ
EN1.ユー・ニード・ミー,アイ・ドント・ニード・ユー
EN2.シェイプ・オブ・ユー
EN3.バッド・ハビッツ