学校では理不尽な処遇に抗議し、妹の窮地を救い、敗戦後は自らの考えで水路部を率いた。
女性の姿も鮮やかに描かれる。利雄の二人の妻は自分の意思で行動する人だった。
「僕は根源的な女性びいきで、二人が内助の功のような人だったら、この小説は書かなかったと思う。当時二人のような女性は本当に珍しかった。だから書こうと決めたし、書いていて楽しかった」
作中には池澤さんの父親の福永武彦も登場する。池澤さんの誕生を利雄に知らせる手紙には、夏樹と命名した思いや母親の詩が書かれている。
日本の近代を書いて感じたのは戦争の愚かさだ。
「始めるのは勇ましく始められるんです。しかし、終結させるのは非常に難しい。ボロボロになってもやめられなかった。人は忘れっぽいから思い出させるのが歴史家と歴史小説の仕事でしょうね」
(仲宇佐ゆり)
※週刊朝日 2023年4月7日号