Yahoo!ニュースは新聞社をはじめ、様々なネットメディアから記事の提供を受けて配信している。基本的にはニュース記事の配信がメインだが、2012年からオーサーがオリジナル記事を発信する「Yahoo!ニュース個人」をスタートし、独自の発信も行う。

「(そうではないニュースサイトもある中で)配信メディアやオーサーに対してきちんとお金を支払っている。また、Yahoo!ニュースの編集部は新聞社の出身者が多く、配信記事がやや報道に偏るきらいはあるが、編集機能が働いていると感じる」(西田氏)

 Yahoo!ニュースのPVは、昨年6月にパソコンとスマートデバイスを合わせて月間100億を突破。バイラルメディアの台頭やスマホアプリの乱立で存在感が薄れると見る向きもあったが、それでも今のところニュースサイトとして他の追随を許さない。Yahoo!ニュースに記事を配信するメディアの多くは、「いかにヤフトピに乗るか」を念頭に置いている。2010年に『ヤフー・トピックスの作り方』(光文社新書)、『ヤフートピックスを狙え』(新潮新書)の2冊が発売されたが、当時(もしくはそれ以前)から状況は大きく変わっていないようにも見える。

●ネット上のパイは実は少ない オールドメディアの難しい境遇

 こうして見る限り、先行するネットメディアに対して、これからデジタルへの本格参入を目指すオールドメディアには、大きな価値観の転換が求められそうだ。

 情報の取得ツールが新聞や雑誌からネットニュースに変わりつつある背景には、「ネットニュースのほとんどが無料だから」という理由もある。無料だからこそ拡散し、人の目に触れやすい。言い換えれば、無限にスペースがあるネット上でニュースを配信することは、誰にでもできる。

 ところが、それを正当な手段で採算化することは実に難しい。これは資金力のある大手メディアであっても同じだ。世間では、資金に余裕のある会社が赤字覚悟でニュースサイトを運営するケースも耳にする。こうした現実も見据えるべきだろう。

 オールドメディアにとってのネット上のパイは、実は思った以上に少ないと言えるのではないか。そんななか、ブランド力を強化する方法として、日経は国境を越えてまでFT買収の道を選択した。これによってさらに“箔”をつけ、電子版の有料購読者数が増えるのであれば、デジタルメディアの成功の1つの形と言えるかもしれない。ただし、彼ら自身にも前述したような不安要因が指摘されていることは事実である。

 ましてや、日経と同じ手を使える他のメディアは、資金力などの側面から見ても、そうそういそうにない。目下のところ、まことしやかに語られる「メディア大再編加速」の可能性は、少なくとも日本企業発のケースとしては、低いと言えるだろう。

 一刻も早く新たな道を進まなくてはいけない。けれども容易に進めない――。今回の買収劇は、メディアが置かれている難しい境遇を、改めて考えさせられるきっかけにもなったとは言えないだろうか。

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