想像が広がる面白さ
大橋さんの話から浮かび上がるのは、「京都」という街が持つ懐の深さ、そして新しいものを面白がりながら取り入れていく、人々の真っすぐな姿勢だ。2010年に京都に移住した大橋さん自身、それを強く感じているという。
「外から見ているイメージ以上に、京都は新しいものが多く、多様なんだ、ということを実感しています。料理を例にとっても、和食ともエスニックとも括れないジャンルレスのものがたくさんありますし、外国の方がオープンする店も増えています。新しいものやちょっと変わったものを面白がる力が京都の方々にはありますし、どこかごちゃっとしている方がリアルな京都だな、と感じることもあります」
多様性を肌で感じられる場所として、大橋さんが挙げるのが平安神宮前の岡崎公園に立つ「平安蚤(のみ)の市」。毎月開催され、約150の古物店が並ぶ。古道具店「Soil」の店主である仲平誠さんが、2019年にスタートさせた比較的新しい蚤の市で、公式ホームページには、英語、フランス語、中国語で案内が記されている。日本の古い器もあれば、東欧の銀食器もある、雑多であることの豊かさを感じられる場所だ。
「出店者のなかには若い方もいらっしゃれば、昔ながらの骨董(こっとう)店の店主という雰囲気を醸し出している方もいらっしゃいます。『この人、何者なのだろう?』と想像が広がっていく面白さがあり、それこそが蚤の市の魅力だな、と」(大橋さん)
京都市左京区にある吉田神社で行われる大規模な「節分祭」(2月2~4日)も、リアルな京都を感じられるお祭りで、京都の人々の節分にかける情熱を感じられる場所だという。鬼に扮した人々が境内に出没し、歩き回る光景は、「はんなり」という言葉に象徴される“おしとやかで上品”というイメージが良い意味で裏切られる、楽しく活気に満ちたイベントだ。
京都という土地の魅力を大橋さんに改めて聞くと、「自然の豊かさと文化度の高さ、そのバランスがものすごく良いところ」という答えが返ってきた。
街に新たな息吹を吹き込む人々が絶えず現れ、それをどっしりと受け止める文化と土壌がある。それこそが、京都の真の魅力なのかもしれない。(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2024年2月5日号