冬の京都を暮らすように旅するなら、街なかの「銭湯」に目を向けてみるのもいい。
「じつは、京都には銭湯が多く存在するんです」と大橋さん。
「大学生が多い街であり、古くから下宿文化が根づいているため、街のいたるところに古い銭湯が残っている。古い建物を見ているだけでも好奇心が掻(か)き立てられますし、銭湯の持つ独特の雰囲気を感じることもできると思います」
坐禅で非日常を体験
たとえば京都・西陣にある、国の登録有形文化財に指定されている「船岡温泉」。大正12(1923)年創業の趣ある建物が印象的だが、内部の壁面には「マジョリカタイル」と呼ばれる色鮮やかなタイルが貼られ、外見とのギャップが人々を魅了する。
一方、京都駅にほど近い場所に建つ「サウナの梅湯」は、明治創業の銭湯をリニューアルした、いわば“ニュー銭湯”。どちらも、旅の途中でありながら地元の人々に触れ、日常を共有できる場所だ。
非日常的な体験として、大橋さんがおすすめするのが、京都市南区にあるギャラリー「る」で開催されている「夜坐禅(ざぜん)会」だ。フォトグラファーとして活躍する傍ら、展示会やイベントなどを企画する黒木康太さんが、かねて親交のあった住職を迎え、不定期で開催している。
「坐禅」と聞くと、ハードルが高いと思われがちだが、予備知識がなくとも参加できるのも魅力だという。身体をほぐすストレッチや呼吸法を経て、約20分の坐禅で気持ちを調える。
「ここでは、『集中できていないな』『雑念があるな』と感じたら合掌して、自己申告すると、住職が警策(きょうさく)でたたいてくださるんです。一瞬にして目が覚めるような感覚はありますが、痛みはなく、不思議とすっきりした気分になります」(大橋さん)
特筆すべきは、坐禅の後に軽い食事が用意されているということ。ある時はカレー、ある時は香港出身の料理家による広東粥(かんとんがゆ)、とその内容もバリエーションに富んでいる。「予約制ではありますが、料理を目当てに行ってもいいほど」と大橋さんは言う。坐禅を終えた後、その場で軽く食事を楽しめれば、あとは宿に戻り眠りにつくだけだ。