杉浦良美さん
杉浦良美さん
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“ボイトレの杉浦先生”へのインタビューも第3回目、話題はさらにディープな方面に入ってゆく。伝説のレコード会社“アルファ”にムード歌謡のレコードを残した話、改めて声楽の先生についている話、そして去る7月5日に日比谷野外大音楽堂でのライヴを見事に成功させたアップアップガールズ(仮)の話。ジャンルを超えて広がるトークをどうぞ。

杉浦 音大を卒業したとき、たまたま知り合いの人に「すごい作曲家の先生がいるから」って紹介されたのが、《別れても好きな人》や《三年目の浮気》を書いた佐々木勉さん(故人)。「音大なら歌えるだろ。レコード出してみるか」といわれて。で、最初は違うひととデュエットだったんですけど、その歌手が私に不満で「一緒にやってられない」と言ったんですね。それをきいた先生が激怒して「俺が歌う」って言い出して、デュエットで1枚レコードを出しました。何がなんだかよくわからなかった。声楽の先生にも「あー、そこ(=歌謡曲の世界)にいっちゃうんだ」みたいな冷ややかな目で見られました。でも(発売元の)アルファ・レコードが面白がって、のぼりをつくって「アルファが初めて出すムード歌謡です。スナックキャンペーンにいきましょう」って。

――1980年代当時のアルファといえばYMOやゲルニカのアルバムを出し、A&Mやウィンダム・ヒル等の海外レーベルとライセンス契約していたはずです。

杉浦 ものすごくおしゃれな会社でした。1年間、佐々木先生と北海道から九州まで回って、大きなホールで歌って。有名な先生だから、行く先々でものすごい接待なんです。今にして思えばなかなかできない経験をさせていただきました。でも、まったく売れませんでしたね。

――ムード歌謡から声楽まで、すごい振り幅です。

杉浦 声楽に関しては5年ほど前から、もう一回ちゃんとやり直そうと先生についています。もちろん音大に行っていた時期も良い先生についていたんですけど、今の先生はイタリアに留学したことがあってオペラの主役しかしたことがないような方です。日本の音大で習ったことは何ひとつ役に立たないという考えを持っていて、発声も何も全然違います。そこでいろいろ勉強させていただいて、ようやく「先生に見られる」という気持ちがわかった(笑)。私の先生はまず怒らない。何をしてもすごく優しいので、私も(アイドルを教えるときに)反省しなきゃなと思って。謙虚になります。

――「アイドルにとっての先生」が生徒として今、「声楽の先生」に習っているのですね。ところで、「レッスンを付け始めた頃と今で、いちばん変わったな」と思うアプガのメンバーは?

杉浦 その時期によって違いますね。あず(関根梓)も変わったけど、(古川)小夏が見事にうまくなりました。小夏は自分で理論的に納得しないと進めないんです。だから頭ごなしに「こうして」と言っても「なんでそうするんですか」ってなるんです。その理由が理解できたうえで自分なりに消化して、努力家なので努力をして、やっと掴んだときに、「先生、わかった」という感じですごい成長するんです。
 あずが成長したきっかけは自信がついたことですね。あずは歌がとても好きで、本当に楽しそうなんですよ、レッスンが。小夏は考え込みながら進むんですけど、あずは「うひょー」っていいながらめっちゃ楽しそうに歌って伸びていくタイプです。

 新井(愛瞳)と最初に会ったときは、「グループの中に一人、子供がいる」と思いました。集中力がなくて、本当に幼かったし、笑わなかったです。ふだんは「先生」ってものすごくかわいい顔で笑ってくるのに、歌になると笑顔になれない。《リスペクトーキョー》の時、マネージャーさんに「もうこれで笑えなかったらメインを外す」って言われて。そのときにヤバいと思ったのか少しだけ笑えるようになって。大人になってきて、だんだん笑えるようになりました。
 佐保(明梨)は最初からダントツで実力があったので、放っておいた時期があるんですよ。他のメンバーにかかりっきりで、それどころ(=実力のある佐保についている場合)じゃなかったの。そうしたら佐保が「自分の歌はこれでいいのか」と、わかんなくなっちゃった。「他のメンバーがうまくなっていくのに、私だけ変わらない」という焦りもあって、調子の出ない時期もありました。でも今はすごいです。「ハイスパートキングダム」(アプガが年末に開催する2時間超えのノンストップ・ライヴ。しだいにスタミナを失っていくファンにアプガが「みんな、がんばってー」と励ます場面も)でも、佐保は息一つあがらず歌ってますよ。しかも暑苦しくない、いい声じゃないですか、誰にも好かれるようなサラサラした声で。

――森咲樹さんは?

杉浦 彼女は本当に普通のお嬢さんっぽい印象でした。ちょっと抜けたところがあって、アーティスティックではない。でも森もすごく変わりました。最初の頃、あごの下にすごい力が入っていたんです。ここに力が入ると声帯がつぶれやすくなるんですけど、それをやめて、新しい発声法を、まじめにコツコツ努力して覚えて。見事に癖を直して上達しました。彼女は挨拶も素晴らしいし、気づかいもすごい。いつも「先生大好き」って言ってくれるのはモリサキですね。かわいいなと思います。

――最近はお天気お姉さんとしても新境地を開いています(テレビ東京の情報番組『チャージ730!』のお天気担当『チャージガール!』として毎週月曜に出演)。

杉浦 前の日の夜がライヴだったりするでしょう。「その翌朝でつらくないの?」ってきいたら、「最初はそう思っていたんだけど、逆に引き締まった気持ちが持続しているので、早朝でもしっかり起きられる」って言ってました。偉いですよ。

――佐藤綾乃さんは?

杉浦 どこから話したらいいんでしょうね……波がありますね。実は佐藤が一番ちゃんとすればうまくなる。ものすごく上手になるタイプなんですよ。なんだけど、すごくうまくなったなと思ったら、次の時はズドーンとおちて元に戻っちゃったりとか、行ったり来たりです。素材は本当にいいんです。すごくいい声だし、声量も表現力もある。

――仙石みなみさんはどうですか?

杉浦 仙石は喉の辺りに思いっきり力を入れて歌うのが癖で、その力を抜くのにすごい時間がかかりました。本当なら1カ月ぐらいしゃべっちゃいけないぐらい、負担がかかっていたんです。なるべく発声を変えていくしかないから、「お願いだからこう発声して」って。本当に苦しかったと思います。泣いてたもの、レッスン中に。「もう無理」って泣いて。「仙石のせいじゃないから」ってずっと言い続けて。それから1年たって、やっと力が抜けてきました。仙石はすごく言うことをきいてくれます。

――4月30日に渋谷WWWで行なわれた「仙石みなみ誕生日スペシャル~武士女道~」は大盛況でした。ソロ歌唱も好評でした。

杉浦 ファンの方から“歌がうまくなったね”って言われたらしくて、すごく喜んでましたよ。[次回7/27(月)更新予定]

■杉浦良美さんのホームページ
http://www.sugiura-method.com/