「半夏生(はんげしょう)」は歳時記では珍しく、雑節であると同時に夏至の七十二候にも数えられている不思議な歳時記です。歳時記としての顔がふたつなら、その由来やまつわりも…二つの顔をもつ歳時記の不思議をたどりましょう。

カラスビシャク(烏柄杓)、別名・半夏(はんげ)
カラスビシャク(烏柄杓)、別名・半夏(はんげ)

「半夏生」の由来と植物は?

歳時記「半夏生」は、雑節としては夏至から数えて11日目を、七十二候としてはその日から5日間を言います。
さて、半夏生にはどんな由来があるのでしょうか?
やはりよく知られているのは、サトイモ科の烏柄杓(からすびしゃく)生薬名・半夏(はんげ)が生ずる頃という説と、ドクダミ科の半夏生(はんげしょう)別名・片白草が花咲く頃だから…というふたつの植物に由来するという説です。また、ドクダミ科の半夏生は別名を片白草というように、花が咲き始めると葉が半分白くなります。そのことから「半化粧」という呼び方もあります。これもまた不思議な姿ですね。

目で楽しむ…半夏生の庭はいずこ

半夏生(半化粧)の花を愛でる、というのもこの時期の楽しみですね。
京都・東山の両足院(りょうぞくいん)が見頃で、6月12日~7月9日まで庭園が特別公開されています。(リンク参照)
鎌倉では、花の寺・瑞泉寺(ずいせんじ)をはじめ、海蔵寺(かいぞうじ)や浄智寺(じょうちじ)でも楽しむことができます。見頃は7月中旬まで。(リンク参照)
今年は花の見頃がいずれも、平年より少し早めのようだという話も聞きます。見逃さないようにお近くの名所を訪ねてみてはいかがでしょう?

農作業もひと段落、物忌みと半夏雨

農作業では「半夏半作(はんげはんさく)」という言葉があり、夏至から半夏生の間に田植を終わらせることが大切とされてきました。半夏生の5日間には、物忌み(ものいみ)として農作の手を休め、ひと息つくようにと言われていました。春から田植まで働きづめだったあとに体を労わり暑さに備えるという意味もあったのでしょう。
関西では、『地に足が根付きますように』という意味から蛸(たこ)を食べて豊作を願う風習もあります。
また、この日に降る雨を「半夏雨(はんげあめ)」といい、「半夏雨」が降ると大雨が続くと言い伝えられています。
さて、今年はどうなりますか?

そして風は南からやってくる…

さまざまな説が飛び交うミステリアスな歳時記「半夏生」ですが、この頃から南風が吹くようになります。南風の呼び方は二つどころか、たくさんあることをご存知でしょうか。
南風は「みなみかぜ」と「なんぷう」、「南吹く」、「大南(おおみなみ)」、「海南風(かいなんぷう)」など。
西日本では「はえ」「まじ」「まぜ」などという呼び方もあり、梅雨時の暗い空模様に吹く風を「黒南風(くろはえ)」、梅雨の晴れ間や梅雨明け後の明るい風を「白南風(しろはえ)」と言います。
半夏生を迎える7月2日は蒸し暑くなる予報のようですが、南風も吹くでしょうか?
どうぞ、脱水症状などに気を付けて節目の一日をお過ごしください。

《参考文献》
俳句 歳時記「夏」 角川学芸出版
春夏秋冬を楽しむ「くらし歳時記」 成美堂出版