ミッツ・マングローブ
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。26回目のテーマは「サブスクと『フィジカル』」について。

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 今や音楽鑑賞と言えば、レコードでもカセットでもCDでもなく「配信・サブスク」が主流です。私もスマホで音楽を聴く際にはサブスクを利用します。歌手別・年代別・ジャンル別など、自分で作成したプレイリストも200個近くあります。

 しかし、これらのプラットフォーム上にある作品たちは、あくまで定額料金を払っている人たちとの「共有物」に過ぎず、自分の中では「盤(CDやレコード)」を購入しない限り、音楽を消費もしくは所有したことになりません。

 若い頃は、レンタルショップで借りてきたCDを、カセットやMDに録音して聴くのが、今で言うサブスク的な役割を担っていました。この場合も、例えばユーミンの最新アルバムを録音したカセットを指して、「ユーミンの新譜を持っている」とは言ってはいけないという線引きがあり、音楽作品の消費・所有は、「新品購入」と「中古美盤購入」までをその限りとし、「録音・複製」もしくは「レンタル落ち中古品(レンタル用のステッカーなどが貼られている)購入」は否というのが、私の線引きです。
 

 私のようなフィジカル至上主義世代にとっては、他にもマネージャーから渡されるスケジュールなんかも紙でないとダメだったりします。昨今のSDGs社会からは完全に乗り遅れているのは重々承知していますが、CDも本も資料も、立体的現実空間の中で、自分の裁量で「棚の何段目に置く」とか「右の引き出しに入れる」といった動作確認が取れないものには、いつまで経っても実感と責任を抱けずにいます。

 どんなにスペースを取っても、「そこに置いてある」「その気になればひとつひとつを手に取れる」というのが、私には何よりも大事なのです。
 

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