官邸の脆さを露呈
9月、岸田首相は内閣改造・自民党役員人事に着手した。小渕優子元経産相を党選挙対策委員長に抜擢。閣僚では上川陽子氏を外相に、加藤鮎子氏を少子化担当相にそれぞれ起用するなど女性5人を登用。評判は上々だった。だが、直後の副大臣(26人)・政務官(28人)の人事では計54人全員が男性で女性はゼロ。「女性軽視」が与野党から批判された。
この人事が明らかになった時、安倍政権の幹部だった政治家は、こう指摘した。「安倍政権だったら、菅官房長官、今井尚哉・首相秘書官(政務)、杉田和博官房副長官(事務)の誰かが気付いて安倍首相に人事の見直しをもとめていたはず。岸田政権にはそういう政権幹部がいない」
確かに岸田政権の松野博一官房長官、嶋田隆・首相秘書官(政務)、栗生俊一官房副長官(事務)が今回の副大臣・政務官人事で動いた形跡はない。岸田官邸の脆さを露呈する出来事だった。
10月に入ると、岸田首相は「経済対策」を打ち出す。当初は投資減税が柱だったが、次第に「税収増を国民に還元する」と所得減税に踏み出していく。突っ込みどころ満載だった。(1)景気回復下で減税すればインフレを加速する(2)税収増の主因は物価高であり、生産性が向上しているわけではない。財政赤字の削減に充てるべきだ(3)物価高に苦しむ低所得者支援には給付の方が即効性がある、などの指摘が与野党から相次いだ。10月半ばには、岸田政権の政策に好意的だった日経新聞が一連の対応を批判するベテラン記者のコラムを掲載。「『経済対策』を装う選挙対策」と指摘した。首相官邸の官僚たちは動揺した。
「増税メガネ」と言われ
それでも岸田首相は筋の悪い所得減税に突き進んだ。所得税を納めている人には所得税と住民税の計4万円の定額減税、住民税非課税世帯には7万円の給付をそれぞれ実施するという。政府部内でも「給付だけで十分なのに、所得減税に踏み出したのは岸田首相が『増税メガネ』といわれていることを気にしているのだろう」(財務省幹部)といった反応が出た。「増税メガネ」は、防衛増税や少子化対策のための負担増を予定している岸田首相に対し、ネット上で広がっている指摘だ。自民党幹部によると、所得減税は「増税メガネ」の印象を打ち消したいという岸田首相の強い意向の表れだという。「俺は増税だけではない。減税もできるんだ」というわけだ。(政治ジャーナリスト・星浩)
※AERA 2023年11月13日号より抜粋