例えば、人気「セントリスト・ダッド」の一人で元保守党閣僚のローリー・スチュワートは、保守党の緊縮財政政策を反省する発言をした。一方で、「中道」を目指すスターマー党首は、緊縮には反対だが財政規律は必要と言う。また、スターマー党首は、「極左」と呼ばれたコービン前党首が次の総選挙で労働党から出馬できないようにしたが、スチュワートはこのやり方を批判する。外交にしろ、スチュワートはイラク戦争を大失敗だったと非難するが、「第三の道」のブレア元首相は今でも「正しいことだった」と主張する。

 このように「中道」の人々の主張はバラバラである。「中道」の政策が何であるのかはっきりしないのなら、言った者勝ちではなかろうか。「中道」が戦争をしたり、公共事業民営化のような大胆な政策を行うこともある。こっそり過激なことをする「中道」、民の声を聞かない独裁的な「中道」だってあり得る。「中道」の言葉が持つイメージは、取扱注意シールが必要な案件だ。名乗る人が増える時は特にそうである。

ブレイディみかこ(Brady Mikako)/1965年福岡県生まれ。作家、コラムニスト。96年からイギリス・ブライトンに在住。著書に『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』『両手にトカレフ』『オンガクハ、セイジデアル』など

AERA 2023年10月16日号

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