英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。
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緊縮財政、戦争、EU離脱。対立と論争に火をつける事象だらけの時代に、英国では「中道」をめぐるバトルが激化している。
「中道(センター・グラウンド)」という言葉が、政治の舞台のど真ん中(まさに「センター・ステージ」)に躍り出ているのだ。テレビをつければ、著名人たちが、中道が求められる理由を語り合っている。ネットでは、「中道おやじ(セントリスト・ダッド)」を名乗る元政治家たちのポッドキャストが人気を博している。労働党のスターマー党首は中道への回帰を宣言しているし、それを裏付けるように、「右でもない左でもない第三の道」を提唱して90年代に旋風を巻き起こしたブレア元首相と接近している。誰もが「中道」を名乗りたがる。センター・グラウンドは大混雑の様相だ。
「中道」の何がそんなに求められているのだろう。確かにそれはバランスの良さと知性を感じさせる。ここ数年、唾をとばして喧嘩してきた人たちを諫める賢明な大人というイメージ。だが、こうしたイメージは抽象的だ。具体的には、今「中道」であるとは何を意味するのか。