ハードバップ・テナーとしては抜群の実力者、ブッカー・アーヴィンはプレスティッジお抱えミュージシャンの趣があります。代表作はなんと言ってもワンホーンの傑作『ザ・ソング・ブック』、吹きまくりテナーの魅力が満載です。彼のアルバムは他にもしみじみとした味わいのアナログB面が良い『ザ・フリーダム・ブック』や目玉のジャケットが印象的な『ザ・トランス』、そしてジミー・オウエンス、ガーネット・ブラウンを率いた3管セクステット『ヘヴィー!!!』など、とにかくたくさんあります。
アーヴィンの魅力をひとことであらわすと、パワフルかつ乾いたテナー・サックスの音色にあると思います。黒人ジャズマン特有のアーシーな感覚は保ちつつ、あまり湿度は感じない。しかしブルージーなフィーリングはきっちり表現する、ある意味で貴重な存在。彼のアルバムはもっと聴かれても良いように思います。
プレスティッジの残された大物作品と言えば、まず頭に浮かぶのが地味渋ながら聴くほどに味わいが増すミルト・ジャクソンの隠れ名盤『ミルト・ジャクソン・カルテット』でしょう。これ、メンバーが面白く、ピアノがホレス・シルヴァーからジョン・ルイスに代わればそのまんまM.J.Q.。たったそれだけの違いでこうも音が黒くなるのは、まさにミルト・ジャズクソンのホンネが現れたから。サイドのシルヴァーもまさに適役ですね。
もう一人、ケニー・ドーハムの『静かなるケニー』も一昔、いや二昔も前のジャズ喫茶リクエスト常連アルバムでした。タイトルどおり、ドーハムのしみじみとした側面が現れた傑作。「名盤の影にトミフラあり」の格言どおり、トミー・フラナガンの参加が滋味をましています。
「大物」と言うには若干小粒ながら、熱心なファンも多いソニー・クリスの代表作『アップ・アップ・アンド・アウェイ』は、プレスティッジとしては新しい時代に差し掛かる1967年の録音。フィフス・ディメンションのヒット曲が目玉ながら、中身はハードバップという微妙な時代感覚が面白い。
そしてこれは大物と言っていいジーン・アモンズの『グッド・バイ』は完全に70年代に入ってからのレコーディング。ナット・アダレイ、ゲイリー・バーツを従えた3管セクステットから繰り出されるアモンズ節は快調そのもの。70年代プレスティッジはほとんど知られていないけれど、これは間違いなく名盤。見かけたら御一聴してみてください。
最後にご紹介するのはまあ、無名と言っていいだろうピアニスト、ロニー・マシューズのハードバップ名盤『ドゥーイン・ザ・サング』。フレディ・ハバードとバリトンのチャールズ・デイヴィスがフロントに立つ2管クインテットの演奏は、聴けば誰しも納得のお買い得アルバムです。
他にもいろいろ面白いアルバムがあるプレスティッジですが、正直、かなり大雑把な作りの作品も散見され、その辺りがブルーノートの堅実な行きかたとは対照的。その代わり、特売品売り場からお買い得商品を漁る快感は、むしろプレスティッジにあるようにも思います。[次回6/22(月)更新予定]