イスラエル有数の国立大学・ヘブライ大学人文学部の学部長を務めるニシム・オトマズキン教授は、大学の卒業式でネタニヤフ政権が進める「憲法改正」を批判するスピーチをしたところ、学生から賛成の拍手とブーイングの両方を受けたといいます。AERA dot.コラム「金閣寺を60回訪れたイスラエル人教授の“ニッポン学”」。今回は、イスラエル政治の現状と大学の民主主義について考えます。
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6月、私が学部長を務めるヘブライ大学人文学部の卒業式で、学生の功績を称えるスピーチをするとともに、ご家族の皆様の揺るぎないご支援に感謝の意を表しました。これらの慣習的な発言に加えて、私は、今日の世界で人文科学を研究することの重要性を強調しました。歴史、文学、哲学、言語学、芸術などの分野を網羅する人文科学と、それらが学生にもたらす計り知れない利点について話しました。私の希望は、卒業生がイスラエルと国際社会の改善のために彼らの才能を活用することです。
伝統的に、学部長として、毎年卒業生に話しかけるのは私の責任です。しかし、今年、私はより差し迫った問題、つまりイスラエルの民主主義に対する潜在的な脅威について取り組むことにしました。私のスピーチは会場からさまざまな反応を呼び起こし、賛成の拍手と不賛成のブーイングの両方を受けました。この記事では、私の演説の背景を説明し、イスラエルが現在直面している政治的行き詰まりに光を当てることにします。
ネタニヤフ第6期政権の発足以来、議会では約1年にわたり、「憲法改正」が他のすべての差し迫った問題よりも最優先されてきました。国内問題には物価の上昇、パレスチナ人との紛争、イランの核の脅威などの懸念も含まれます。政府は、「憲法改正」がガバナンスを強化し、より効果的な政府につながると主張しています。
日本とは異なり、イスラエルには正式な憲法がありません。その代わりに、法制度の基礎として、国家の「独立宣言」と一連の13の基本法に依存しています。何年にもわたって、イスラエル議会(クネセット)によって可決された法律を精査して、これらの原則と一致していることを確認するのが最高裁判所の役割でした。設立から75年の間に、イスラエル最高裁判所はわずか22の法律しか覆していません。