小学4年生のときに、長女の胃ろうからの注入を行う次女の様子です。この頃の次女は、医療的ケアに興味津々でお手伝いをしてくれていましたが、いつの間にか私と同じケアができるようになり、頼ってしまうこともあります。お手伝いとケアラーの境界線は、とても難しいですね(撮影/江利川ちひろ)
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「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 夏休みが明けて9月になりました。

 学校の長期休み中には、教職員向けにさまざまな研修が行われることが多いのですが、この夏休みは、私はある県立高校の先生方に向けて「ヤングケアラー」に関する講座の講師を依頼されました。

 この春からスクールソーシャルワーカーとして非常勤で勤務している県の教育委員会の採用試験でも、ヤングケアラーについての知識を問われたり、面接では実際に支援する場面での対応について聞かれたりすることもありました。県にとどまらず、国レベルで取り組みが始まったのではないかと実感しています。

 今回は、ヤングケアラーについて書いてみようと思います。

中学2年生の17人に1人

 こども家庭庁は、ヤングケアラーを「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこども(18歳未満)」と定義しています。

 スクールソーシャルワーカーはヤングケアラーに関する専門職ではありますが、私は今回の講座依頼を受けるにあたり、改めて文献を読んで学び直すところから始めました。するとやはり、年々更新されるデータ内容も含め、私が知らなかったことが複数ありました。

 まずは、その人数です。2020年度に行われた厚生労働省の調査によると、なんと全国の中学2年生の17人にひとり、全日制高校2年生の24人にひとりがヤングケアラーという結果でした。単純計算で1クラスに1~2人いることになります。さらにケアを受ける対象者も年々変わってきているようです。

「ヤングケアラー」という言葉を聞いた時に、どんな場面を想像するでしょうか?祖父母の介護や人身ともに体調を崩した両親のケアをイメージされる方もいるかもしれません。でも実態は、きょうだいの世話をしている子どもがとても多いのです。先ほどの中学2年生のヤングケアラーのうち61%、全日制高校2年生のヤングケアラーのうち44%が、ケアが必要なきょうだいがいる家庭の子どもでした。神奈川県藤沢市が2016年に公立小中学校の生徒に向けて行った実態調査でも、ヤングケアラー506人中268人(52.8%)がきょうだいの世話を担っていることがわかりました。小学生にもヤングケアラーが多く含まれていることに衝撃を受けましたが、ヤングケアラーの半数以上がきょうだいの世話をしていることには、さらに驚きました。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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お手伝いとケアラーの境界線とは