複雑な背景のしわ寄せ

 きょうだいのケアを担わなければならない背景はとても複雑です。

 たとえば、保護者がとても忙しいご家庭があったとして、お子さんが学校から帰った後に食事の支度を手伝ったり、上のお子さんが下の子さんを助けたりすることはヤングケアラーではありません。本来子どもの「本職」である学校やあそびに影響が出るほどにケアが続くと、お手伝いの域を超えてヤングケアラーの状態となるのです。現在の非正規雇用の割合の増加や、ひとり親家庭の増加、そして障害のある子どもが増えたことにより、未就学児を預かる保育所など本来なら利用できるはずの社会資源やマンパワーが不足していることもヤングケアラーと複雑に絡み合っています。

手伝いとケアラーの境界線

 さて。講座の最後に、少しだけ我が家の話を入れました。このコラムでも何度か書いてきましたが、きょうだい児(病気や障害のある子どもの兄弟姉妹)の双子の次女のことです。

 夫が仕事で不在がちな我が家の環境も、どうしても長女のケアを次女に助けてもらわなくてはならない場面があります。私の帰宅が遅くなり、胃ろうから注入を頼む時もあれば、休日に食材の買い物に出かける1時間ほど、長女の横にいてもらってようすを見つつ、DVDが止まったら再生ボタンを押してもらうこともあります。学校を休んでもらったり次女の予定を変更してもらったりすることはなくても、事前に頼んでいた日に予定が入りそうな時は断っていた、と後になって知ったこともありました。お手伝いとケアラーの境界線は、本人の意思と、本人の時間を最優先にすることだと思います。それでも、気付かないうちにメンタル面に負担をかけている可能性もあります。次女が我が家の環境を苦に思わないよう、母親としても支援者としても真剣に考えていかなければならないと思っています。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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