取材では、記者の目をしっかりと見て、過去の経験やエピソードを交えながら、どんな質問にも一つ一つ丁寧に答えた[撮影/蜷川実花、hair & make up 永瀬多壱(VANITES) styling 伊藤省吾(sitor) costume セブン バイ セブン、ラッド ミュージシャン]

 公開中の映画「春に散る」でプロボクサーの青年を演じた横浜流星さん。幼少期から続けた極真空手の経験を生かし、役作りにストイックさを見せている。AERA 2023年9月11日号より。

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――今年6月にはボクシングのプロテストを受け、C級ライセンスを取得した。「春に散る」の宣伝活動が本格化することを意識してのタイミングだった。

横浜:ボクシングの練習を昨年4月から始め、自分はやっぱり格闘技が好きなんだ、と改めて感じるようになっていました。ボクシング指導の松浦慎一郎さんにも「ボクシングを題材にした作品は数多くあるけれど、そのなかでも一番すごいものにしてください」とお願いしていました。自分で自分のハードルを上げていたんですね(笑)。でも、言葉にしたからこそ自分のなかでは乗り越えることができたと思っていますし、クオリティーの高いボクシングシーンをつくり上げることができたという自負もあります。「魂を込めてやったんだ」という気持ちを見せることで作品を盛り上げたいという思いに加え、微力ながら自分が好きな格闘技を盛り上げていきたいという気持ちもありました。

暗闇のなかにいる感覚

 格闘技の試合では、当たりどころが悪ければ、命を失ってしまうかもしれない。命を懸けて戦う姿は本当にカッコいいと思うし、ボクシングであれば1ラウンド3分の計12ラウンドという少ない時間のなかで勝敗が決まってしまう儚さもある。リングに立つその日のために水抜きも厭わず、命を懸けて戦っている姿は純粋に人としてカッコいいな、と観戦に行くたびに思いますし、やっぱり好きだな、と。

 一瞬のために準備を重ねるのは役者の仕事も同じです。礼儀を含め、空手をやってきたから今の自分が形成されている。それは日々感じています。心が強くないと役者の仕事はできない。空手は心も鍛えられるんです。

――とはいえ、常に強い心を持ち続けるのは難しい。心が折れそうになることもあった。

横浜:映画「流浪の月」の撮影中は李相日監督の要求が高いこともあり、「どうすればいいんだろう」と常に悩みながら現場にいました。(婚約者をDVで苦しめるという)役柄の影響も少なからずありますが、家にいるときもずっと頭を抱えていました。結果的に「いいお芝居だった」と言って頂くことができたので救われた気がしましたが、撮影中はずっと暗闇のなかにいる感覚でした。

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