歳時記には、二十四節気・七十二候の他に「雑節」があります。これは日本独自の季節の節目で、二十四節気と七十二候では言い尽くせない、日本の風土を掲げています。その一つに「八十八夜(はちじゅうはちや)」があります。
「夏も近づく…」で始まる唱歌『茶摘み』に触れながら、茶にまつわる日本の美と心についてお話します。
*八十八夜の計算…国立天文台HP参照

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八十八夜を過ぎて数日で季節は変わる…

立春から数えて八十八日めが「八十八夜」ということはよく知られていることと思います。そして、その数日後(今年は5月6日)に「立夏(りっか)」を迎え、季節は夏へと移ります。唱歌『茶摘み』にはそのとおりの歌詞が…
『夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉がしげる
あれに見えるは茶摘みじゃないか、あかねだすきに菅の笠…』
五月の新緑が野にも山にもあふれ、茶畑には茜色のたすきがけをして菅の笠(すげのかさ)を被った茶摘みの姿が見えるよ、と季節の風景をリズミカルに歌っています。二番のはじまりは『日和つづきの今日このごろ…」とあり、この頃になると天気の良い日が続くことが描かれています。小学校唱歌なので、誰もが一度は歌ったことがあると思いますが、茶畑の無い地域ではなかなか実感できない風景です。ですが、だからこそ子供の頃から日本の初夏の原風景として覚えていたい一節ですね。
楽曲・歌詞引用 音楽研究所サイト参照

お茶と言えば、カテキン…成分以外にも知っておきたいこと

現代では、健康への配慮が欠かせないため、どんな嗜好品でもその成分や効果が気になるところですね。でも、その前に…お茶には日本人ならではの美意識や癒しなど、心に作用する効用もたくさんあります。
例えば、日本では茶は「茶道(さどう)」という一つの芸道へと発展しました。そのことにより、茶室のしつらいを中心に、もてなしの形式や心が培われてきたのは言うまでもありません。そして、そこには「愛でる(めでる)」という美意識が存在することも忘れてはならないと思います。
茶は中国から渡来しましたが、当初茶室(または茶席)に花を飾るという形式はありませんでした。書や器や文具などを飾るのが本来の形式でした。今では当たり前の、茶室に花を飾る習慣は日本的な心の現れだったのですね。
また、日本では茶の楽しみ方が一つではありません。抹茶(まっちゃ)・煎茶(せんちゃ)それぞれ流派があり、芸道として受け継がれています。そこには究極のシンプルが表現されています。シンプルにそぎ落とした「余白」に心を込める。これが日本の茶のもてなしの基本のようです。新茶を一服(いっぷく)飲みながら、和の心を感じてみませんか。

参考資料・文献
「茶の本」岡倉天心
「茶道のみちしるべ」サイト参照