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 3年前の夏のこと。
「ミャ~ン、ミャ~ン」
 裏庭のあたりで子のか細げな声がする。
 おなかがすいたよう、何かちょうだいよう──わたしには何を訴えているのかがわかる。
「シッシッ」と猫を追い払う近所のおじいさんの声が聞こえた。ちょうど帰ってきたばかりの娘がすっ飛んでいく。
 娘は「黒猫だと瞬間思ったけど……。見て、見て、早く」と、息を弾ませながら帰ってきた。
 娘は真っ黒な猫、わたしは抱っこができる子猫が欲しい、そう思っていた。2人の願望に近い子猫が、今わたしたちの手に。
 すぐに獣医さんに連れていくと、生後1カ月半の雌猫とのこと。
「ぴーぴー」鳴くから名前はぴーちゃん。それからは猫可愛がりの日々で、いま2歳半(写真)。
 朝、テーブルの上に新聞を広げると、必ずぴーちゃんがやってくる。わたしにも読ませてなのかしら……。猫に小判だよ。
 新聞はしばらくお預けにする。少し一緒に遊ぼう。そんなときは、噛まれないよう軍手をはめることにしている。
 この間、大事な身内を亡くし、思い出しては涙に暮れていた。声が自然に出てしまい、その泣き声で目を覚ましたぴーちゃんは「どしたの? 何かあった?」とばかりにテーブルの上に飛び乗って、わたしの手をペロペロとなめてくれた。そして床に下りた。
 何が始まるのだろうと呆気にとられていると、仰向けに寝て4本の脚と体を動かすパフォーマンスを演じたのだ。いつもこれをするとわたしが笑うことを知っての、“とっておき”のものだった。
 こんな可憐で小さな動物にも、思いやりや優しさがあるのだと再確認した。

(大野節子さん 滋賀県/79歳/無職)

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