哲学者 内田樹
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 哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、倫理的視点からアプローチします。

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 宮崎駿の新作「君たちはどう生きるか」を観てきた。賛否両論らしいが、単独の作品として観た場合の評価と、これまでの宮崎駿全作品との比較で観た場合の評価とがずれてしまうのは仕方がない。私は宮崎駿の大ファンであり、20世紀の終わり頃からは公開と同時に封切館で観てきた。映画評もずいぶん書いた。でも、今回はどう評価してよいのかよくわからない。

「君たちはどう生きるか」は「母の死を受け入れることができない少年が死んだ母のあとを追って冥界に下り、〈母の代理表象〉たちと冥界をめぐり、また現実に戻って、母の死を受け入れる」という物語である。そう要約しても、おおかたの観客は納得してくれると思う。

 そう言ったら、「まるで『古事記』ですね」という人がいた。ほんとにそうだ。母との幸福な融合の記憶をどこかで諦(あきら)めることなしに、少年は「大人」になることができない。これは世界どこでも共通の通過儀礼譚である。

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