処理水の海洋放出について説明する岸田文雄首相=8月24日、首相官邸
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 8月24日午後、東京電力は、福島第一原発敷地内のタンクに貯蔵してきた「処理水」の海洋放出を開始した。筆者は2011年の原発事故直後から現地に入り、第一原発の敷地内外で取材を重ねてきた。そのなかで、何人もの漁師や、水産関連に携わる人たちにも話を聞いてきた。処理水の放出は、ようやく復活してきた福島の漁業にとっては、足かせにもなりかねない。漁師の声を聞いた。

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「福島の海はまた死んでしまった」

 原発から約30キロ離れた港で漁師のAさんは力なくそう話した。

「国と東電は、地元が了解しない限り処理水は流さないとずっと言ってきた。約束をほごにして放出するなんていうのは許せない。海は国、東電のものじゃない。国民や世界の人々のものなんだ」

「あんたたちにはわからねぇだろが」

 筆者がAさんと出会ったのは、2011年の事故から約2カ月後だった。Aさんは福島県いわき市の港の堤防に腰を掛け、たばこを吸いながら海を見ていた。

 そのときも最初にこう話した。

「もう福島の海は死んだ。あんたたちにはなかなかわかんねぇだろが」

 Aさんの父親も漁師だった。後を継いで15年ほど経ったころだ。

「やっと父親からも一人前と認めてもらえるまでになり、これからというときだ。津波で船がぶっ壊れた。これはしょうがない。あきらめもつく。また船を新しくすればいい。しかし、原発は海をぶっ壊したんだ」

 と怒りに震えていた。

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「地元の理解」はどこに