中国人が増えるとラオス社会はどうなる

 国境地帯のボーテンはラオス側でありながらも、“漢字があふれる中国人の町”であることはすでに述べたとおりだ。前出の大西教授は高まる中国のプレゼンスについて、「これは階層的格差を生むことになり、いずれは大きな問題を引き起こすのではないでしょうか」と指摘する。

「ボーテン自体はほぼ全員が中国人なので『民族矛盾』は生じようがありませんが、それ以外のルアンナムター県やウドムサイ県など、場合によれば今後さらに中国人の人口が急増すると思われるビエンチャンなどでの『民族矛盾』の方が大きいと思います」(大西教授) 

大西教授は中国新疆ウイグル自治区にも何度も調査に訪れているが、ここで目の当たりにしたのも、「アクティブな中国人と労働者として使役されるウイグル人」という構図だった。これが今日の新疆ウイグル自治区で根深い対立を生み、深刻な社会問題となっている。

 ラオスにおいても「アクティブな中国人とそうではないラオス人との間で、異なる階級を形成し、対立する利害が民族フリクションを起こす可能性があります」と大西教授は懸念する。

「ラオス北部にはゴム園やキャッサバ農場がありますが、ここにも中国人が進出しています。ラオス人は早起きが苦手で日中の暑さを嫌がりますが、中国人はこういう苦労さえも乗り越えてしまうのです。地元の人々は中国人には勝てないのです」(同)

「一帯一路」で緊密さを増す中国と新興国。世界の至る所に中国人が進出しビジネスを成功させているが、それはとりもなおさず、現地の人々にとって悩ましい問題を引き起こしていることを意味する。

 今後、中国人による国境を越えた商売はますます活発になるだろう。しかし、それが“片方だけの利益”に終始すれば、現地の人々が心のバランスを崩し、ひいては社会全体に不安をもたらしかねない。ラオスの国境の町の事例は、そんな「一帯一路」に潜在するリスクを物語っている。

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