
地球上を汚染した放射線を除去する装置「コスモクリーナーD」が登場したのは、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」だが、その初回放送は1974年のこと。実は、その5年後にテレビ放送で初めて採用されたと言われるものがある。“モザイク”だ。
モザイクといえば、アダルトビデオを連想する諸氏が多いと思うが、実はテレビ朝日系列のクイズ番組「クイズ ヒントでピント」の「テクニカル・著名人顔当てクイズ(モザイク処理された芸能人の顔を当てるクイズ)」で使われたのが最初である。この時、テレビ朝日とNECがモザイク処理技術を共同開発したというのだ。
高額の賞金がかかっているわけでもないクイズに答えるために、わざわざモザイク消去技術が発展することはない。男性誌の広告などで“モザイク消去グッズ”が登場するのは、アダルトビデオが普及し、「モザイク処理=アダルトビデオ」という認識が広まる1980年代以降のことになる。
いかにもあやしげな「モザイクで隠されたアノ部分が見える!」という惹句に、思わず購入した諸兄も多いのだろう。がしかし、果たして「見えたぞ!」という声は聞かれない。「だまされた」「詐欺だ」という声が聞こえてくるばかりだ。では、実際のところ、モザイクは消去できるのだろうか?
モザイク消去を考える場合、重要なことは「元の映像が残っているのかどうか」だ。モザイク処理によって、元の映像(平たく言えば、局部の映像)が残っていれば、モザイクを消去し、元映像を見ることはできるはずだ。
実は、モザイク処理には大別して2種類の方法がある。「可逆的処理」と「非可逆的処理」だ。前者は、“モザイクをかける部分を分割して並べかえる”という手法を採る。「クイズ ヒントでピント」で使われた技術はこの可逆変換だと思われる。この場合、元の画像が残っているため、基本的に再現は可能だ。現在、シュレッダーで裁断された書類を復元する技術があるが、それと同じことだ。
しかし、復元することができる画像処理を行ったワイセツ画像をネット配信した業者や、モザイク処理が不十分なアダルト作品を審査でパスさせた日本ビデオ倫理協会の審査員が有罪判決を受けている。もうこの手は通用しないだろうし、モザイクを消せるような作品を手に入れることも無理だろう。
一方の非可逆処理とはどのようなものか。対象となる部分の画像の解像度を極度に下げ、反転させる、特定の色をかぶせる、色を平準化させるなどの処理が組み合わされて行われている。この処理の段階で「元の画像」は失われるため、どのような処理を施しても元の画像を見ることはできない。
ただし、処理が甘かったり、モザイク処理された範囲が小かったりする場合などは、“元の画像に近いもの”を見ることは可能かもしれない。この場合は、元の画像を再現しているのではなく、あくまでも「たぶん、こんな画像」と推測しているにすぎないことは強調しておく。残念ながら、数千円や数万円程度で入手できる機械でモザイクを消去することは困難だと言わざるを得ない。
ところで、モザイク処理をするにも多大な手間暇がかかっている。ビデオ映像は1秒30コマのフレームで構成されているが、そのフレームごとにきちんとモザイク処理をしている。そのほとんどが手作業なのだ。1分の映像にモザイク処理をするために12時間程度かかるという話もある。動画であれば、モザイクをかける対象も動いているので、それだけの手間がかかるというわけだ。最近では対象物を自動的に追跡するモザイク処理技術も開発され、かなり負担は低減しているという。
「隠されているから見たくなるのであって、実はまったく隠されなければそれほど見たいと思わないのではないか」という気持ちもあるが、はっきり言えば、現在のモザイク処理を消すことはほぼ不可能だと言ってよい。
どうしても見たい諸兄は、規制されていない海外へ行くか、昔ながらの「薄目で見てみる」という手法を採った方がいいだろう。モザイク消去技術は、人間の妄想力にはかなわないのだ。
(ライター・里田実彦)