
翻訳AI(人工知能)の「DeepL(ディープエル)や対話型生成AIの「ChatGPT」など、AIによる翻訳は英語学習者にとって心強い存在。だが、AIは万能ではなくカバーしきれない表現もあるようだ。AERA 2023年7月31日号から。
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AIが英語学習者の強力な武器であることは間違いない。だが、はたしてAIに弱点はないのだろうか。ビジネスの最前線に身を置く社内通訳者に協力してもらい、弱点を探してみることにした。
『「なんでやねん」を英語で言えますか?』などの著書があり、フリーの通訳者・翻訳者として長年働いてきた川合亮平さんは、昨年から米国のスタートアップに社内通訳として勤めている。
東京五輪などでも通訳を務めた川合さんだが、ビジネスの現場ではそれまで出合うことのなかった英語表現に出くわすことも多いという。例えばmoving forward。
「『今後は』の意味で、文頭や文末につけて使います。会話でもメールでも、しょっちゅう使われるのですが、初めて見たときは、なんだろうと思いました」
プロの通訳が知らなかったのならば、AIだってまだわかっていないかもしれない。早速Google翻訳に打ち込んでみると、「前進する」と日本語訳が表示された。DeepLでも同じで、「前進」「前へ」の訳になる。「今後は」の意味は見当たらない。
次に「今後は」と日本語を入れてみると、出てくる英訳はおなじみ「from now on」だ。「前進する」と入れれば「advance」と出る。ロスト・イン・トランスレーションな気分だが、とにかくAI先生にもカバーしきれていない表現があるのは間違いない。
おそらく、ビジネススラングやjargon(業界用語)として使われている単語や表現は、まだデータソースが十分でなく、AIにとっての弱点なのだろう。
もう一つ、川合さんが最近好んで使っているのがreach outという表現。
「他の部署の人からスラックで連絡がきた時など、まずは必ずThank you for reaching out.と返しています」
ご連絡ありがとう、の意味だ。Thank you for your message.でもいいのだが、reach outのほうがこなれて聞こえるニュアンスがあるという。この「こなれ」感も、AIが理解するのは難しいだろう。
別の大手外資系企業で社内通訳を務める男性が挙げてくれたのは、"cadence"