買い物でポイントを貯めて「得した」と思っていたけど、ほんとうは得なんかしてない。データを集めている会社は、ぼくらに還元するポイントの何倍ものお金を、そのデータで稼いでいる。いつどこでなにを買ったかというデータは、いまやカネを生む資源なのだ。
『パーソナルデータの衝撃』は、こうした購買履歴などのデータがどのように使われているかを書いた本だ。著者は野村総研の研究員で、出版元もビジネス・経済書で定評のある会社。だから、「パーソナルデータを集めてビジネスに活かそう」という企業寄りのスタンスで書かれているのかと思いきや、そうでもない。消費者が意識しないところでデータがどのように集められ、どのように使われているのかが、詳しくかつ分かりやすく書かれている。そして、データを提供したくないときはどうすればいいのかや、消費者が自分のデータをコントロールする方法などについても書かれている。
いちばんの問題は、どのようなデータが収集・蓄積され、どのようなかたちで誰に提供されているのかが、消費者自身によく分からないことだ。たとえばDVDを借りるとする。データはレンタル店だけが使うのか、レンタル店を運営する会社全体が使うのか、あるいは提携する異業種の会社全部が使うのか。DVD一本のデータが、コンビニやファミレスや駐車場や電話会社にまで流れているのだとしたら? 収集されるデータはモノやサービスの購買履歴だけじゃない。ウェブサイトの閲覧履歴だってそうだ。
ポイントを貯めるたびに、ネットにアクセスするたびに、ぼくらは自分のプライバシーを売り渡している。まずはそう自覚するところからはじめよう。そのうえで、レジでポイントカードを差し出すかどうか決めよう。閲覧ソフトのプライバシー設定をどうするか自分で判断しよう。何を買ったか、何を見たかという情報は、ぼくら消費者自身のものだ。
※週刊朝日 2015年4月3日号