わたしは、その先生に会ったことはないけれど、「ぜったい、若いイケメン」だと、わたしは、確信している(笑)。

 マジックは、当然のことながら、タネも仕掛けもある。お金を出して買えるものもあって、簡単なものもいっぱいあるらしい。そんなマジックを覚えて孫たちに披露していた。

「おばあちゃん、すごい」と、孫たちは、簡単に喜んでくれる。

 それに気をよくした母は、マジックにはまった。

 元々わたしと違って、母は、そんなに手先が不器用な人間じゃない。

 わたしたちの子どもの頃の服は、母が縫ってくれたし、弟たちの散髪も子供の頃は、母がやっていたくらい。だから、昔のカンを取戻したのか、せっせとマジックのタネと仕掛け作りをした。わたしは、正直、

「ボケ防止でいいかも……」くらいにしか思っていなかった。

 でも、石の上にも3年。それなりに上達した。

 そして、仲間と一緒に「老人ホームに慰問でマジックをやってください」と、頼まれた。

 それなりにウケたらしい。得意げにわたしに語ってくれた。

「77歳のわたしが、老人ホームの慰問に呼ばれたんよ。もちろん、老人ホームには、わたしよりも若い人もいるんよ」

「高級老人ホームやったけど、わたしは、慰問されるより、慰問しに行くほうがいいわ」

「でも、『すごい』って、みんな楽しんでくれたんよ」

 かなり、ごきげん。それどころか、

「しかも、お車代として、5000円もらったんよ。この年になって、芸してお金もらえるなんて思ってなかったわ」

 まるで、芸人気分になっている。

 すっかり、気をよくした母は、孫だけでなく、わたしやわたしの友人の前でも、「ちょっとやってみせようか」と、頼みもしないのに、やりだす。

 ところが、腕を上げたのか、タネと仕掛けがいいのか、千円札が一万円札に変わったりと、なかなかおもしろい。

「大谷さんのお母さん、楽しいね」

 と、意外とみんな楽しんでくれる。

 80歳近くなっても、人を楽しませられる母を「すごい」と、感じている。

 見習って、マジック習おうかな……。

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