何を見ているのか、わかってしまう……(※イメージ写真)
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 ドライバーが運転時にどこを見ているのか、検証しているテレビ番組を見たことがあるだろう。そこで使われているのが視線測定装置なのだが、実験や研究用として使われるイメージが強い。マーケティングのために活用されることも多く、たとえば、Webページのどこに広告を配置すれば効果的なのかという調査などに用いられている。

 マーケティングに関して、人の目の動きを観察して得られる法則として代表的なものは、パソコン画面を「Z」のように見ていく“Zの法則”や「F」の方向に視線が動く“Fの法則”と呼ばれるものがある。これらの法則を用いてWebページのレイアウトやコンテンツの配置を行うことで、売りたいものに視線があたり、売り上げアップにつながることを期待しての試みだ。

 ところで、視線測定装置といえば、どんな機器をイメージするだろうか? 特殊なカメラが付いた大きくて重いヘッドギアを被り、ボタンやスイッチが並んだ、何か難しそうなインターフェースを操作するといったイメージが一般的だろう。だが、そんなイメージはひと昔のもの。視線測定装置は「アイトラッカー」と呼ばれ、IT用語としても認知されつつあり、最近のものは装置も手軽で、より自然に計測できるものに進化しているのだ。

 その代表なものが、トビー・テクノロジー株式会社の「Tobii X2-60アイトラッカー」だ。こちらはまず、ヘッドギアを被る必要がない。視線測定の対象となるディスプレーの下端に、ペンケースほどの黒い直方体の機器を取り付け、USBでPCに接続するだけだ。設置した装置から画像がパソコンに送られ、その画像をもとにユーザーの瞳孔を解析して視線を測定する仕組みである。

 前述したように、「Tobii X2-60アイトラッカー」はペンケースほどの小さい機器だ。さらに、ディスプレーのフレームと色が似ていることで同化する。よく目を凝らさなければアイトラッカーがつけられていることがわかられないだろう。ヘッドギアを身につけるのと違い、被験者に“実験していること”を意識させないで済むので、より自然な計測結果が得られるやすくなる。小型であることで、テレビやノートパソコン、タブレットなどにも取り付けが可能だ。

 アイトラッカーの低価格化、小型化に伴い、装置を用いたマーケティング調査サービスにも多く使われるようになっている。「アイトラッキング調査」なる名称で、被験者3人で25万円~といった料金で調査を請け負う会社があったり、キャンペーン期間中に限って9800円~といったリサーチ会社も登場したりした。また、10万円前後でアイトラッキング機器や設備のレンタルを行う会社も現れた。今後は、アイトラッキングがより一般的なリサーチ手法として認知されていくだろう。

 「目は口ほどに物を言う」――何げなく見ているディスプレーにアイトラッカーが設置されていて、何を欲しがっているのか、何色が好きなのかといった嗜好性を、気づかないうちに調べられてしまう時代も近いだろう。だがそれは、最高の“おもてなし”でもあるのだが……

(ライター・中森勇人)

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