大隅 はい。エピとは「上書き」とか「後から」という意味です。ATGCで持っている遺伝子情報は基本的にはどの細胞も同じなのですが、スイッチがオンになるかオフになるかはそれぞれ違いがあるんです。例えば神経の細胞と皮膚の細胞は、さかのぼると外胚葉というところまでは一緒で、そこから違う運命になっていくのですが、どんな遺伝子の働きがその違いを決めるのか。その仕組みはどうなっているのか。ものすごく複雑な世界です。世界中の生命科学者が解明に向けてチャレンジを続けているところですね。ちなみに、先ほどゲノム解読が容易になったと言いましたが、例えば特定の遺伝子2万個の、どれがスイッチオン/オフになっているかも、今は全部、簡単に調べられるようになっているんですよ。解析機器が飛躍的に進歩したおかげですね。AIは生命科学の分野でも日常的に使われるようになっています。

後編に続く

【プロフィール】

東北大学副学長(広報・ダイバーシティ担当)および附属図書館長

東北大学大学院・医学系研究科・ニューログローバルコアセンター長

発生発達神経科学分野 教授

大隅 典子 さん

1960 年、神奈川県生まれ。東京医科歯科大学大学院・歯学研究科・博士課程修了。歯学博士。歯科医師免許取得。国立精神・神経センター・神経研究所室長を経て、1998 年から東北大学大学院医学系研究科・教授に就任。専門は発生生物学、分子神経科学。著書に『脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』(講談社ブルーバックス)、『脳の誕生 発生・発達・進化の謎を解く』(ちくま新書)など。

作家

瀬名 秀明 さん

1968 年、静岡県生まれ。東北大学大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。1995 年、大学院在学中に『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。SF 小説をはじめ、ロボット学や生命科学など科学をテーマにした著作を多数執筆。1998年、『BRAIN VALLEY』で日本SF 大賞を受賞。2006 年より3 年間、東北大学工学部機械系特任教授を務めた。