進軍を中止し、南部軍管区司令部から撤退するワグネルの部隊=ロシア南部ロストフナドヌー、6月24日(ロイター/アフロ)
進軍を中止し、南部軍管区司令部から撤退するワグネルの部隊=ロシア南部ロストフナドヌー、6月24日(ロイター/アフロ)
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 ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン氏の反乱は、世界を驚かせた。プーチン氏に反旗を翻した「プリゴジンの乱」の背景には何があるのか。AERA 2023年7月17日号の記事を紹介する。

【写真】南部軍管区司令部を後にするワグネル創設者のプリゴジン氏


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 プリゴジン氏は今回、武装した戦闘員を大挙して首都モスクワに向かわせただけではない。その過程で、正規軍の航空機を複数撃墜し、10人以上の死者を出したとされる。


 これほど重大な反逆を起こしたにもかかわらず、捜査を担当した連邦保安局(FSB)はわずか3日後、プリゴジン氏の刑事責任をいっさい問わないという結論を出した。プリゴジン氏は今後、拠点を隣国ベラルーシに移すことになるとみられる。


 常識では理解できない寛大な処分を決められるのは、プーチン氏ただ一人だ。


 プーチン氏が、長年の友人関係や巨額の資金提供に配慮したという事情もあるだろう。プリゴジン氏が持ち前の抜け目のなさを発揮して「自分が不自然な死を遂げたら、政権に不都合な秘密を暴露する手はずとなっている」などと伝えて、揺さぶりをかけた可能性もある。


■見逃せない人気


 もう一つ見逃せないのは、ロシア国民の間でプリゴジン氏がすっかり人気者となってしまっていたという事情だ。


 正規軍の上層部や国内のエリート層を乱暴な言葉で批判するプリゴジン氏のスタイルは、国民に受けていた。


 世論調査によると、反乱前に6割近くあったプリゴジン氏の支持率は、反乱後も約3割を維持。支持の理由としては「事実を語り、率直で開けっぴろげで正直だから」という選択肢が最も多く選ばれた。


 反乱収束後も、国民の46%は、プリゴジン氏の軍批判に一定の理があると考えているという結果も出ている。


 こうした世論を作り上げたのも、プーチン政権自身だ。


 反乱前、ロシアの国営メディアはプリゴジン氏とワグネルをさんざん持ち上げていた。


 ニュース専門チャンネルRTのシモニャン編集長は、ワグネルがウクライナ東部の戦線で前進した今年1月、「プリゴジン氏の素晴らしいところは、驚くほど礼儀正しいところだ」と絶賛した。

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