テーマをぴしっと決めて司会が進行する会議よりも、だらだら続く雑談のほうが実りあることが多い。話はあっちへ飛び、こっちにさまよう。でも、いろんなアイデアが生まれる。『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』はそんな本だ。
 著者のひとり、小林弘人は雑誌「ワイアード」日本版を創刊するなどしたカリスマ的編集者。ベストセラーになった『フリー』や『MAKERS』の監修もしている。崇拝者は彼を「こばへん」と呼ぶ。もうひとりの柳瀬博一も編集者。雑誌や書籍の編集だけでなく、「日経ビジネスオンライン」のプロデューサーをしていた。ネットやITビジネスに詳しい編集者の対談、いやおしゃべりである。
 長いタイトルの意味は、人びとがネットによって「巨大組織の中で生きる現代人」から「小さな村で活動する原始人」に先祖返りさせられた、というもの。ただし退化ではなく「原始人2.0」として。
 人びとの関係は広くフラットになるかと思いきや、濃厚で狭いつながりが生じるようになった。まるでマスメディア登場以前の村社会のように。ただし、「原始人1.0」と違うのは、ひとりの人が同時にいくつもの村に所属していることだ。仕事だったり趣味だったり地域社会だったり。
 刺激的な話、キャッチーな名言がたくさん出てくる。曰く、「最強のロールモデルは池上彰さん」。曰く、「商店街で生き残るのはスナック、洋品店、理容店・美容室」。曰く、「会社はすべからく属人化すべし」。
 なかでも、「デザインを制する者が市場を制す」というのは深い言葉だ。なぜならデザインは人がモノやコトに接するときのインターフェイスだから。そこに力を注がない企業や組織は人を引きつけられない。たとえば、売れない雑誌、話題にならない雑誌は、デザインがだめ……なんていうふうに、読者が自分の関心によせて読めるのがこの本のいいところだ。

週刊朝日 2015年3月20日号