大阪ダブル選でも活躍した維新のボランティアスタッフ。私がよその選挙を観光がてら見に行く「選挙漫遊」を勧めるのは、他人の選挙から多くを学べるからだ(撮影/畠山理仁)
大阪ダブル選でも活躍した維新のボランティアスタッフ。私がよその選挙を観光がてら見に行く「選挙漫遊」を勧めるのは、他人の選挙から多くを学べるからだ(撮影/畠山理仁)

 維新のボランティアをしている人に話を聞いてみると、選挙区外から手伝いに来る人も少なくない。各地の選挙に出向いて経験値を積む。そのスタッフが、現場でどのように振る舞うべきなのかを新人に態度で伝える。経験値の高いボランティア、戦闘力の高いボランティアを育ててきたことが躍進の原動力になっていることは間違いない。

 これは今回の選挙で地方議員が124人になった参政党にも共通している。「自分たちが主役」と考えて、一人ひとりが自律的に活動する政治勢力は確実に伸びる。主張の良しあしを判断するのは有権者だが、まずは存在を知ってもらうことの大切さをわかっている。実際、維新の会の関係者は「参政党の活発な活動や動員力には脅威を感じている」と私に話していた。

■全員に会うのは大変

 統一地方選挙の後半戦は、自分自身も有権者の一人である東京・杉並区議会議員選挙を取材した。杉並区議選には定数48に対して69人が立候補したが、私は、告示日から投票日前日の1週間の選挙期間中に、一人で69人全員に接触して取材動画をインターネット上に投稿した。

 当初、この無謀とも思える計画を候補者に伝えると「そんなことできるの?」と驚かれた。「無理でしょ」と笑う人もいた。それでも多くの候補者がこの取り組みを「面白い」と言って、撮影や取材に応じてくれた。選挙期間は政治家のガードが下がる最大のチャンスである。

 選挙は4年に1度行われる「政策の見本市」だ。すべての候補者が真剣に政治のことを考え、自分なりの問題意識で有権者に訴えている。そのためすべての候補者に会えば、4年間、政治への注視をサボっていた人でも一気に政治に詳しくなれる。

 今回、私自身は69人全員に接触したが、なにもすべての有権者に「候補者全員に会え」と言っているわけではない。全員に会うことが難しいのは、誰よりも私がよく知っている。

 杉並区内には鉄道の駅が19あるが、候補者は69人。乗降客が多い駅頭は街頭演説の人気スポットになるため、場所取りが熾烈だ。そのため「他の候補者と重なった場合は場所を変更する。予定を伝えたくても伝えられない」という候補者が続出した。

 候補者の中には住宅街を選挙カーや自転車で回って、「その時々で判断して演説をする」という人もいた。政党の公認候補が拡声器を載せた台車を押しながら住宅街を歩き、辻辻で演説する様子も見た。会いたいと思っても、なかなか会えないのだ。

 しかし、実際に会ってみると、多くの発見があった。党の主張とは異なる自説を展開する公認候補者もいれば、「こんな主張をしていたのか」と、新たな宝物を見つけたような気持ちになる候補者もいた。会わなければわからないことは確実にある。

 候補者全員に会った結果、自信を持って言えることがある。それは「悔いのない投票行動ができた」ということだ。私は69人の中から「自分の考える1番」を選択できて大満足している。(フリーランスライター・畠山理仁)

AERA 2023年5月29日号より抜粋

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