ジャーナリストの田原総一朗さんは、現在の日米関係を見直せるチャンスがあると指摘する。
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約四半世紀続いたこの連載も残念ながら最終回を迎えてしまった。最後にはやはり、現政権、岸田文雄首相について書いておきたい。
岸田内閣は防衛費の倍増を掲げ、GDP比1.24%だったのを2027年度には2%に引き上げるよう指示した。
岸田氏は宏池会のリーダーである。宏池会といえば、池田勇人、宮沢喜一以来、自民党きってのハト派であった。ハト派であるはずの岸田氏が防衛費を倍増させ、しかも敵基地攻撃能力を持つなどと、専守防衛に反する政策まで打ち出したのである。
安保戦略の大転換であり、危険極まりないとする批判が、野党だけでなく、自民党内部からも聞こえてきている。
なぜ、このような大転換をしなければならなくなったのか。
岸田氏はなぜかその理由をあいまいにしているが、要するに米国の強い要請によるものである。
第2次世界大戦に勝利した米国は世界最大の強国、経済大国であった。世界の平和、秩序は米国が守る、というのが米国民の使命感としてあった。これをパックス・アメリカーナと称した。
ところが、米国経済が著しく悪化して、オバマ大統領は「世界の警察としての役割を果たせなくなった」と言い、トランプ大統領はそれまでのどの大統領候補も絶対に口にしなかった言葉を言ってのけた。「世界のことはどうでもよい。米国さえよければいいのだ。自分はそのために全力を尽くす」。こう言ってのけたことで、大統領選を勝ち抜いた。
レーガン大統領ら歴代大統領はいずれも「グローバリズム」を強調していた。グローバリズムとは、ヒト・モノ・カネが国境を超えて世界市場で活躍することだ。だが、米国の経済力が落ち、経営者たちは自国の人件費の高さを避けようと、工場をメキシコやアジアの国々に移すようになった。米国内の少なからぬ工業地帯は廃虚同然となり、多くの米国民が失業した。そこで、トランプ氏が反グローバリズムを打ち出したわけだ。